◆No.2. 決して裏切らない大駒──酔象

文字数 1,190文字

越前の名門朝倉家の英傑・朝倉宗滴が没したあと後事を託され、朝倉家を守ることを固く誓った「宗滴五将」の筆頭「仁の将」山崎吉家。朝倉将棋最強の駒に譬えられた男は、なぜそこまで主家に尽くしたのか──。朝倉家家臣団の離反、謀略、裏切りのなかで孤軍奮闘する忠臣の姿を描いた『酔象の流儀 朝倉盛衰記』の裏話を、著者・赤神諒氏が語ります!

〈酔象〉は実在した将棋の駒です。

一乗谷の遺跡から戦国時代に使われた400年以上昔の将棋の駒が発掘されたのですが、その中に現在使われていない駒がひとつありました。

それが〈酔象〉で、今の将棋の駒に酔象を追加した将棋が〈朝倉将棋〉です。

小説に使わない手はないですね。

『酔象』では、朝倉家臣団が将棋の駒を使って、軍議をします。

もちろん私の創作ですが、物語では各駒で登場人物の役割や立場を表しました。

〈酔象〉は文字通り、酔っ払った象です。

物語の吉家は、ずんぐりむっくりの大男ですが、これは酔っ払った象のイメージから来ています(単純ですみません)。

彼のキャラクターも象のように穏やかで優しく、しかし力持ちで、強い。

お酒は好きだけれど、実は弱い。

動きも話し方も全て、腹が立つほどスローです。

酔象は王将のすぐ前に置く大駒で、後ろ以外の全方向にひとマスずつ動けます。

重要なルールですが、敵陣に入ると〈太子〉に成ります。

太子が盤面に現れると、王将を取っても、まだ勝てません。

さらに太子をも取らなければ、詰まないのです。

酔象という駒を一つ追加しただけで、将棋のルールは変容し、戦略も変わるそうです。

朝倉将棋にはもう一つ、重要なルールがあります。

酔象は一度、盤上から消えると、二度と現れません。

金将や銀将、飛車、角などの駒と違い、自分の駒として使えないのです。

つまり絶対に味方を裏切らない駒だといえます。

当たり前ですが、王将以外にこんな駒はないですよね。

これこそまさに朝倉家に殉じた主人公の駒だと考えて、キャラ設定をしていきました。

ちなみに物語の舞台である一乗谷の史跡には、酔象の駒のストラップが売っています。

執筆中は USB ディスクにそれを付けていました。

でも象って、本当に酔っ払ったら、どうなるんでしょうね?

※一乗谷朝倉氏遺跡(復原町並)

赤神 (あかがみ・りょう)

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。同作品は「新人離れしたデビュー作」として大いに話題となった。他の著書に『大友の聖将『大友落月記』神遊の城』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』 村上水軍の神姫』北前船用心棒 赤穂ノ湊 犬侍見参』『立花三将伝』などがある。

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