第28回

文字数 2,531文字

「密は避けよ」「旅には出よ」と政府の旗揚げゲームめいた指示に踊る2020年・秋。

連休には各地が観光客で賑わうニュース映像が踊り、空気は変わってきたのかもしれません。


観光もいいけど、でもボクらはやっぱりひきこもり。

そうは思いませんか?


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、困難な時代のサバイブ術!

ひきこもり生活を送る最大の難関は経済面であり、奇跡的にクリアしても今度は外部とのコミュニケーションをどうするかという、ある意味経済よりも大きな問題が立ちはだかっている。


つまり「社会性のあるひきこもり」という「清純派ヤリマン」みたいな存在になるよりは、普通に外に出て生活するほうが5億倍簡単なので、それが出来る人はそっちを選んでほしいと思う。


今回はひきつづき、ひきこもりのコミュニケーション問題について話したいと思う。

本当は、労働せずにひきこもる「不労所得編」の話をしたいのだが、前進がないので仕方がない。

むしろ後退しているような気さえするが、これは高く飛ぶために一旦しゃがんでいるだけだ。

しゃがみ過ぎて、足がプリッツみたいに衰えてきており、立てるのかどうかさえ不安になってきているが、リスクのない投資はない、むしろノーリスクを謳う投資は全部詐欺と思った方がいい。


ウマイ話には乗らない、というのもひきこもるには大事なことである


だが、成果が出ていることもある。

先日から、ひきこもりのネバーランドことコンビニでの散財を防止するため、アマゾソで菓子をまとめ買いし、コンビニ、そして外に出る回数を減らす作戦に出たが、効果は抜群であり、月1万円以上は使っていたであろうコンビニ費を半分以下にし、外出回数も大幅に減らすことができた。


ただ、そうしている間にも私の証券口座は6桁のマイナスを表示し、さらにその5倍ぐらいの税金が引き落とされたりもしている。

私の人生、3歩進んでムーンウォーク、という感じだが「自粛期間中に通販をし過ぎてコロナ破産」という、コロナにとっては言いがかりでしかない報道があったように、通販はひきこもりを脅かすもののように見えるが、上手く使えばさらにひきこもり生活が捗るということだ。


そして、コミュニケーション問題だが、これはどちらかというとひきこもった後に起こる問題である。

洞窟で暮らす生物の目が退化しているように、使わない機能というのは衰える。

ひきこもりになり、他人とコミュニケーションをとらなければ、ただでさえ低いひきこもりのコミュ力はさらに退化してしまう。


目が退化した分、耳が発達した生物がいるように、ひきこもりも言語能力が退化した分、皮膚の色で意志を伝えられるように進化すれば良いのだが、人間ほど進化が止まっている生き物はないのでそれは難しいだろう。


コミュ力に限らず、ひきこもり生活で体力や足が衰えたら、家が燃えたとしても逃げることも出来ないし、敦盛も舞えない。

それと同じように、コミュ力も衰えたら結局いざという時困るのである。


体力面については家にルームウォーカーを設置して、せめて二足歩行が可能なように日々訓練している。

それと同じように、家が燃えた時せめてしかるべき相手に「オレノ イエモエテル トテモアツイ」と伝えられるぐらいの訓練は必要なのではないだろうか。


他人とコミュニケーションをとるのが嫌でひきこもったのに、今度は自らコミュニケーションの練習をしなければいけないという、再びムーンウォークな気がしてならないが、必要に迫られたコミュニケーションよりは気が楽かも知れない。


だが、気をつけなければいけないのは練習の場である。

間違っても町内のソフトボールクラブに入ってはいけないし、家の前の公園の井戸端会議に参加しようとしてもダメだ。


そもそも何故ひきこもりになったかというと、会社などに「いづらくなったから」である。

つまり、近しいコミュニティに入ってもそれが原因でまた「いづらくなる」可能性はかなり高い。


会社なら辞めるということも出来るが、住んでいる地域にいづらくなるというのは致命的過ぎる。コミュ力の訓練で引っ越す、というのは本家マイケルでも「神よ」と天を仰ぐ後退ぶりである。


よってコミュ力を高めるために、何かしらのコミュニティに所属するとしたら「いつでもバックレ可能で、後腐れがない」ものにした方がいい。


前にいた会社も自分のせいで極めていづらく、最終的に四面デスメタル状態だったのだが、逃げるように辞めたあと、その後もその人間関係が生活に響いているかというとそんなことはない。

逆に言えば今、会社をバックレるように辞めたとしたら当然悪口は言われるだろうが、それが自分の耳に届くことはないし、それが今後の人生にも大きく影響するということはほぼないのだ。

よって、もう会社が辛くてメンのヘルが限界だという人は、バックレでもいいからとにかく辞めた方がいい。


ともかくコミュ力の訓練をするなら、住んでいる地域からは少し離れた習い事ぐらいがいいということだ。


ただし、田舎の場合、少し離れている程度では意外と筒抜けだったりもする。


孤独死などの問題を救うのはそういう「地域の絆」だったりするのだが、ひきこもりの生活を邪魔するのもそれだったりするし、逆にその絆に入れなかったことが死因になる場合もある。


ひきこもりになるなら、住む場所の「絆度」もチェックしておいたほうがいいかもしれない。

★次回更新は11月14日(金)です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

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