現役大学生が読んだ!『御社のチャラ男』/絲山秋子・著

文字数 1,710文字

現役の大学生が本を読んで、率直な感想を語ります!

今回は、絲山秋子さん『御社のチャラ男』です。

就職をしたことのない大学生の目からみた「社会人」とは…⁉

『御社のチャラ男』はこんなお話!


ある地方の小さな会社「ジョルジュ食品」に社長のコネでやってきた三芳部長は、社内でひそかにチャラ男と呼ばれている。

自分には自分がないと悟る三芳と、彼のまわりの人びとが彼を語ることで見えてくる、この社会に生きる私たちの現実──。

すべての働くひとい贈る傑作「会社員」小説!

『御社のチャラ男』感想  / M.K


『御社のチャラ男』は、地方の小さな食品会社の人間模様を描いた作品だ。「チャラ男」と呼ばれるのは、部長の三芳道造。社内、社外を問わず彼を知る人間がチャラ男について自分のエピソードとともに語っていく。そんな構成なので、読み進めるとパズルのピースがはまるように、チャラ男の人間像が分かってくる。

チャラ男「被害者」は数多く、なんとなく読者側が参考人から事情聴取をしているような気持ちにもなる作品である。


さて、タイトルの「チャラ男」という言葉をちらりと見たときに真っ先に思い浮かんだのは、若く、なんだかヘラヘラしていて軽薄で軟派で顎で使われて、といったタイプの人間だった。この名詞自体、使い古されて捨て置かれたようなイメージがある。しかし、意外や意外。舞台は現代、本作でチャラ男をしている三芳は40代のおじさんで、肩書も人を使う立場の部長なのだ。


私の考える「チャラ男」像とは似ても似つかない人物設定に初めは少し戸惑った。しかし、性格がいい加減という点で、ああ、この人チャラ男だなあと納得。面倒な仕事を部下に押し付けておいて逃げるのはいつものこと、女性社員をなめてかかってくるし、実力がないのに調子に乗り、それでも上手くやっていける。あとケチ。私にはまだ社会経験がないので偉そうなことは全く言えないけれど、いいとこなしのちょっと最悪なタイプだ。本当にいるのかな?帯の「いませんか?こんなひと。」という言葉が怖い。いるんだろうな……。


チャラ男の生態に詳しい本作だが、私の中でとりわけ印象に残ったエピソードは、チャラ男からは少し離れたものだった。それは、チャラ男が会議で「KAWAII」コンセプトの提案をし、偉いおじさん社員たちが「まずいものを食べた動物のような顔」になったというもの。この場面を見ていた女性社員は考える。おじさんは、本当は可愛いものが大好きだからこそ必死になってそれを拒み、たやすく可愛いを手にする者を制裁するのだ!と。


この発想がもちろんすべての人に当てはまるはずだ、というわけではない。心からマッチョな男性像が好きでそれを追い求める人も一定数いるだろう。だがしかし、世のおじさんたちへの見方が変わりそうな発想だと思った。目からうろこだ。例えば、おじさんが可愛い男性アイドルのことを冷ややかに見たり、悪しざまに言ったりすることがある。これは女性から人気ということにやっかんでいるのかと思っていたが、もしかすると自身が可愛くなりたくてもなれない(と勝手に思っている)のに、可愛いという属性を「簡単に」手に入れ、それを前面に押し出している男性アイドルそのものに対しての嫉妬だったのではないか……などと勝手に想像してみるのも面白い。


ここまでずっとチャラ男とおじさんの話ばかりになってしまった。しかし本作では、チャラ男の横暴さが目立ちこそはすれど、社員の存在感ももちろん大きい。各エピソードでうかがい知ることができるが、彼ら彼女らにもプライベートがあり、時にはしたたかに生きていく術を手中に握っている。ここから導き出される、バッドエンドではなく、希望を見せるラストが爽快だった。めちゃくちゃなのに、なぜか感動してしまうラストを見届けてほしい。


コロナ禍直前の2020年初頭に刊行され、各紙誌書評で絶賛された著者の“会社員”小説史上最高傑作ともいえる『御社のチャラ男』が、ついに文庫化!

いませんか?
こんなひと。


どこにでもいる、軽くて世渡り上手なチャラ男。
わかっていますか、本当の彼のこと。
組織に属する「私たち」の実態にせまる“会社員”小説の傑作!

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