(95)前川裕【織田信長】

文字数 670文字

現代を代表する作家・漫画家・学者・舞台で活躍する芸人やタレントの方たちに、好きな戦国武将のアンケート調査を実施いたしました。

激動の令和において、人気のある武将は果たしてだれなのか?!

前川裕(まえかわ・ゆたか)さん


──1951年東京都生まれ。2011年『クリーピー』が第15回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し翌年デビュー。著書に、『アトロシティー』『アパリション』『ハーシュ』『死屍累々の夜』などがある。近著に『愛しのシャロン』。

【わたしの好きな戦国武将】


織田信長

織田信長は、カミュの『カリギュラ』を連想させる。稀代の暴君として知られるローマ皇帝を、謎に満ちた哲学者に仕立て上げた不条理劇だ。カリギュラは、非道の限りを尽くしながら、人間の愚かしさと滑稽さを暴き立て、暗殺者を待ち受ける。「おれはまだ生きている!」(新潮文庫版 渡辺守章訳)は、刃を受けながら絶叫するカリギュラ最期の独白である。


人間性という隙を見せれば、寝首を搔こうと闇の中で窺い見ている敵の殺意が顔を出す。こういった状況は戦国武将の常であり、信長に限ったことではない。だが、凄まじい暴力の実践者でありながら、近代主義者でもあった信長は、死に場所を求めて彷徨する不条理劇の主人公のように見えるのだ。信長の暗殺者、明智光秀との確執は、不条理と理知の衝突だったのかも知れない。本能寺の炎に包まれて死に行く信長が「おれはまだ生きている!」と叫んだかは定かではないが、矛盾に満ちた理解不能な人間は、私にとって最大の魅力である。

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