第4回★田中芳樹さんの凄さ/第9~12巻担当編集K

文字数 1,907文字

田中芳樹氏の大人気伝奇アクション小説『創竜伝』が、33年の時を経てついに完結──! 完結を記念して、歴代担当編集者や大ファンの現役編集者が、自分だけの「創竜伝とわたし」について語ります! 凄まじい超能力を秘めた竜堂四兄弟も小躍りして喜ぶこと間違いなしのとっておきの裏話をここに‼


第4回は、第9巻から第12巻までの担当編集Kが田中芳樹さんの超人的な制作秘話とその驚愕の知識量を紹介!

『創竜伝』の完結、まさに感無量です。1987年、昭和で言うと63年のスタートで、完結したのが2020年令和2年ですから、平成がすっぽり入ってしまったことになります。その間、編集者として長く田中芳樹さんと一緒にお仕事をさせて頂きました。



「伝奇小説は完結しない方がよい」という説があります。私自身も長大な物語が大好きで、著者がなくなった後も別の方によって書き継がれているあの大河長編なども最新巻まで読んでおります。永遠に終わらないで書き続けられる物語というのもいいものです。でも、『創竜伝』は完結して欲しかった。なぜなら、『創竜伝』は、田中さんも仰る通り、伝奇小説であるとともに、家族小説でもあるからです。竜堂四兄弟の未来がどうなるのかは、私もたいへん気になるところでした。最終巻の15巻は編集者という立場を離れて、一読者として楽しませていただきましたが、いままでの14巻で語られてきた物語が怒涛のようによみがえってきて、まさに圧巻でした。いままで登場したあの人物や、この人物がいまどうしているのか、四兄弟以外の人たちのその後もしっかり描かれます。私は個人的に共和学園理事長がどうなったのか気になっていたのですが、彼もしっかり登場します。



ところで、拙文を読んでくださっている方は、おそらく既に最終巻を読んでおられる方が大半だと思います。もし周りの方で『創竜伝』が完結したことを知らない方や、まだ読んでいない方にぜひお知らせしてくださると大変嬉しいです。

 担当をさせていただいていた時の思い出はたくさんありますが、何よりも驚いたのは、「原稿空白行の不思議」です。これは田中芳樹さんを担当したすべての編集者が一様にびっくりするのではないでしょうか。田中さんは今や少数派となってしまった手書きで原稿用紙に小説を書くスタイルです。一字一字すごく丁寧に書かれた極めて読みやすい原稿なのですが、編集者に手渡される前の段階の原稿には、ところどころ数行から十数行の空白が空いているのです。それがいざ手渡される段階になると、ぴったりその空白が埋められております。余分に飛び出したり、空白になっている行などはありません。田中さんの頭の中では、この描写は何行、ここは何行と出来上がっているので、飛ばしておいても後から埋められるということなのでしょうが、ワープロを使用していればともかく、手書きでそういうことをされている作家は他に知りません。

 それから、もう一つ驚いたのは田中さんの読書量です。それもマイナーな本からマニアックなものまで、「どこでそんな本を見つけ出しましたんですか」と聞きたくなるほど珍しい本もよく読まれております。そうした本を貸していただくことがあるのですが、中でも印象に残っているのは、ロシアの作家がモンゴル帝国のことを書いた歴史小説です。主人公はジョチウルスの創設者のバトゥで、ロシアの作家が書いたものにもかかわらず、爽やかで凛々しい若き武将として描かれていました。田中さんと言うと中国の歴史が好きというイメージをお持ちの方がおられるかと思いますが、歴史に関することなら地域を限らずにお好きなのです。



 そんな田中さんなので、ついついその知識に頼ってしまうこともありました。他の作家の方の作品を編集していた際、どうしても確認がとれない中国史に関する記述があって困った時のことです。当時はインターネットなど影も形もない時代ですから、ある出来事からそれを行った人物を調べるような「逆引き」は、今では考えられないほど困難でした。本当に困ってしまって、つい田中さんに電話をしたところ、たちどころに正解を教えてくださったのです。お礼を言って電話を切ったら、三十分後に会社にファックスが届きました。そこには、調べていた人物に関する手書きの系図と資料が記されていました。本当に感謝したのは言うまでもありません。



 さて、『創竜伝』は完結しましたが、今後も田中さんは次々と小説を書いていかれることと思います。ジャンルを問わずに小説が好きな田中さんですから、次は予想もしないジャンルにチャレンジされるかもしれません。今は何よりもそれが楽しみです。

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