『ゾンビ3.0』ブックレビュー/岡本 健

文字数 1,579文字

写真:アフロ

集合知で脅威に挑む


 これは「いま」「ここ」「私たち」のゾンビ小説だ。本書を読んでいて強く感じた。 

 近年、ゾンビは映画のみならずゲーム、ドラマ、マンガ、アニメ等に頻繁に登場している。テーマパークやイベントでもゾンビをモチーフにしたものがたくさんあるし、ハロウィーンのゾンビメークもすっかり定着した。


 ゾンビと聞くと、誰もが何かしらの造形を思い浮かべることができる。しかし、そのイメージの源泉は世代や趣味によって異なる。死体なのかそうでないのか、歩くのか走るのか、ゾンビ化の原因は何か、意識があるのかないのか…。


 ゾンビという存在が1932年に映画に描かれて以降、多くのメディアや国に波及し、その性質を変化させていった。ゾンビは人間にとって恐怖の対象であると同時に、「人間の怖さ」を体現してきた存在だ。本書は、まさにそうしたゾンビの最新版なのだ。


 物語の舞台は東京都内の研究所。世界中に突如現れたゾンビに包囲された危機的状況の中で、その性質や感染拡大の解決策を突き止めようと、若き科学者たちが奔走する「本格ゾンビミステリー」である。


 えたいの知れない存在に混乱する群衆や政府の右往左往ぶりは、新型コロナウイルス禍の状況を連想させ、情報社会におけるゾンビパニックをリアリティーたっぷりに描いている。だが、主人公たちは努めて冷静に「科学者は、目を閉じたら負けだ」とゾンビに関するあらゆる情報を集めて分析しようと試みる。


 魅力的なのは、科学的知見に限らず、インターネットで視聴できる各地のライブ映像、映画やゲームに登場するゾンビの設定など、多様な情報から真実に迫ろうとする点だ。一般の人たちが撮影した動画や書き込みなども参考にしながら、「集合知」によって脅威に立ち向かう。その姿勢は、コロナ禍の時代に生きる私たちに「人間の希望」を見せてくれる。胸のすくゾンビエンタメだ。


評・岡本健(近畿大准教授)/共同通信配信


岡本 健(おかもと・たけし)

1983年奈良県生まれ。北海道大学文学部卒業(専攻は認知心理学)、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院観光創造専攻博士後期課程修了。博士(観光学)。現在、近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 社会・マスメディア系専攻 准教授。著書に『n次創作観光』『ゾンビ学』『アニメ聖地巡礼の観光社会学』『巡礼ビジネス』『大学で学ぶゾンビ学』、共編著に『コンテンツツーリズム研究』『メディア・コンテンツ・スタディーズ』『ゆるレポ』などがある。VTuber「ゾンビ先生」の中の人でもある。

「呪いでもない。ウイルスでもない。ではなぜゾンビ化する? 

生命科学者なら誰もが知りながら誰も正面から書かなかったアイデアに感嘆した。
これは『パラサイト・イヴ2.0』でもある」
──瀬名秀明氏に絶賛され、さらにKゾンビが好調な韓国からのオファーによって日韓同時刊行を果たした、ゾンビファン注目の書下ろしホラー長編!

石川智健(いしかわ・ともたけ)

1985年神奈川県生まれ。25歳のときに書いた『グレイメン』で2011年に国際的小説アワードの「ゴールデン・エレファント賞」第2回大賞を受賞。’12年に同作品が日米韓で刊行となり、26歳で作家デビューを果たす。『エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守』は、経済学を絡めた斬新な警察小説として人気を博した。また’18年に『60(ロクジュウ) 誤判対策室』がドラマ化され、『20(ニジュウ) 誤判対策室』はそれに続く作品。その他の著書に『小鳥冬馬の心像』『法廷外弁護士・相楽圭 はじまりはモヒートで』『ため息に溺れる』『キリングクラブ』『第三者隠蔽機関』『本と踊れば恋をする』『この色を閉じ込める』『断罪 悪は夏の底に』『いたずらにモテる刑事の捜査報告書』『私はたゆたい、私はしずむ』『闇の余白』など。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色