第102回

文字数 2,520文字

ひきこもり関連の記事というのは、ひきこもり当人や家族を取材したものが多いが、ひきこもりを支援する団体を扱ったものもある。


先日ひきこもり関連記事を読んでいたところ、最後の最後で取り上げられているひきこもり支援団体が、私の地元の団体であることが判明した。


ちなみに掲載されていたのは、ローカルニュースサイトではなく全国版のニュースサイトである。

我が県のことが全国ニュースに出てくること自体が割と異例であり、ひきこもり支援団体という名のカルト教団なのではないかと思ったが、どうやらちゃんとした団体のようである。


わざわざ全国誌が地方の団体を取り上げるということは、その団体は全国的に見ても先進的なひきこもり支援を行っているということなのだろう。

だが、ひきこもりの支援が発達しているということは、同時に我が県は「ひきこもりの数が多い」可能性がある。

少なくとも病人がいない街に病院は立たない。団体戦で挑まなければいけないほどひきこもりがいるから、支援団体も存在するのである。

もしくは量より質、一騎当千の引きこもりが我が県には多いのかもしれない。


我が県の特産品といえば総理大臣であり、大臣なら、山に生えている蛇口をひねれば出てくるし、おばあちゃんちに行くと総理を甘辛く煮たやつが出てくる、でおなじみだったが、ひきこもりも隠れた名産なのかもしれない。


実際我が県にひきこもりが多いかは不明であり、私も私以外のひきこもりを地元で見たことはないのだが、そもそもひきこもっているのだから、ひきこもり同士が出会うはずがない。


ひきこもりというのは基本的に隠れているもので、本人も家族も隠そうとする傾向があるため、おそらく国も正確な数字は把握しきれていないのではないだろうか。

むしろ「うちはひきこもりがいて困ってるっす」と素直に言える家は、まだ引きこもりとして重度ではないと思われる。


私の本業は「人の不幸ソムリエ」なので、日々ネットで不幸な人を探しているが、本物の不幸な人はネットをやる余裕などないのでネット上には存在しないのだ。

それと同じように、一刻も早くなんとかしなければいけないひきこもりほど数字に入っておらず、事件が起きてからやっとカウントされているのだと思われる。


そんなわけで、肉眼で見えないだけで結構ひきこもりがいるとわかった我が地元だが、そもそもひきこもりに地域差はあるのだろうか。


前回書いたが、日本はひきこもりの原産国であり、ひきこもりが生まれやすい土壌に、ひきこもりが育ちやすい環境が合わさって生まれた一種のブランドである。


しかし、米だって育ちやすい地域とそうでない地域がある。

ひきこもりの品質も地域によって差が出るものなのだろうか。


まず、都会と田舎ではどっちがひきこもりが多いかというと、すごく差があるわけではないが「田舎」の方が多いらしいく、某県では18歳から55歳の間のひきこもり率が8.8%にもなっているらしい。

つまり約10人に1人はひきこもりであり、ここまでくると珍しくもないのでもういいのではないかとすら思う。

ただ、何せ田舎なので、そもそも18歳から55歳が総人口の1割しかいないという可能性もあり、そうなると引きこもりは総人口の1%程度となる。

ハナから結婚の意思がない人間を含めて「●歳以上の男女の●%が結婚できない」と言ったり、ニュースというのは見出しをセンセーショナルにするために数字のマジックを使っている場合があるので、全てを鵜呑みにしてはいけない。


では仮に都会より田舎の方がひきこもりが多いと仮定した場合、その原因はなんなのか。


専門家によると「交通の便」が関係しているのではないか、ということだ。

ひきこもりといえば「コンビニだけには行く」でお馴染みだが、「コンビニへ行く」と言っても、田舎と都会では意味が違う。

都会のコンビニであれば「徒歩圏内」が当たり前だろうが、田舎はそうではない。

現に私の「コンビニに行くは車を運転することを意味しており、正直かなり面倒である。

また、田舎の夜は都会よりも格段に暗いため「深夜に一人でコンビニに行く」のはかなりの大冒険になってくる。


つまり、都会と田舎では外出に対するハードルが違うため、田舎のひきこもりの方がより外出から遠ざかってしまいがち、ということだ。

それに、私はまだ「車を運転するひきこもり」なので必要に迫られて外出することもあるが、車のない田舎の引きこもりは、仮に外出したくても手段がないため無理なのだ。


また、ひきこもりは「自力でひきこもっている」というケースは稀である。

むしろひきこもってても自活ができているなら問題ではない。

つまり一人暮らしより、生活を支えてくれる家族と共に「実家」で暮らしているひきこもりが方が多いということだ。


都会は確かに人口が多いが、それは各地から人が集まっているからであり実家住まいの人までもが密集しているわけではない。また都会より田舎の方が世間体を気にする傾向がある。

つまり都会より田舎の方が、「ひきこもりを匿う実家」が多いため、ひきこもりの数も多いのではないだろうか。


そうだとしたら、我が県はかなり条件が揃っているため、やはり他の県に比べてもひきこもりの発生率は高いのかもしれない。


つまり私は、ひきこもりの原産国の中でもさらにひきこもりの名産地で生まれたひきこもりということになる。


つまり「コシヒカリ」や「秋田小町」と同じだ。

私が中途半端なひきこもり方をしたら、地元のブランドに傷をつけることになる。さすがあの県産のひきこもり、と言われるよう、一層気を引き締めてひきこもっていきたいと思う。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

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