美しい瞬()間()
うちのマンションのベランダからアキちゃんちの
屋()上()は
丸()見()え。
夏()になるとあそこにビニールプールを
出()して、あたしたちはいっしょに
水()遊()びした。
幼()なじみってやつだ。
アキちゃんは
小()学校()の
途()中()から
学校()に
来()なくなった。
卒()業()式()も
欠席()した。けど、
中()学()の
入()学()式()にはちゃんと
制服()を
着()て、
体()育()館()の
列()に
並()んでた。だけどまたすぐ
来()なくなって、
中()一の一
学()期()が
過()ぎ、二
学()期()が
終()わり、三
学()期()になった。
そして
世()界()中()にコロナが
蔓延()した。
あたし、
見()たんだ。
丸()い
月()がぽっかり
浮()かんだ
夜()、
屋()上()でアキちゃんが、くるくる
躍()ってるとこ。
そっか、アキちゃん、ずっと
苦()しかったんだ。
学校()に
行()ってないこと、
毎日()悩()んでたんだ。
アキちゃんはそれからしょっちゅう
屋()上()に
出()てくるようになった。そして
解放()感()いっぱいに、
思()い
思()いに
過()ごす。ほどなく
屋()上()にテントが
出()現()した。
中()で
寝()転()んでいるのか、テントからアキちゃんの
足()だけがのぞく。ときどきギターの
音()がする。あいみょんの「マリーゴールド」が
聴()こえてきて、へぇ~アキちゃん、あいみょん
聴()くんだ~とか
思()う。
アキちゃんちの
屋()上()に、どんどん
物()が
増()えていく。パラソルとデッキチェア。
優()雅()に
任天堂()Switch()をプレイするアキちゃん。あつ
森()やってんのかな。
暑()い
日()には、あのビニールプールも
出()された。プールでアキちゃんちの
犬()が
水()浴()びするのを、あたしは
隠()れてずっと
見()てた。
ある
日()、アキちゃんがギターで
弾()く「マリーゴールド」にあわせて、サビを
歌()って、ベランダ
越()しにジョイントした。
アキちゃんはギターを
弾()く
手()を
止()め、
「
誰()だ!?」
屋()上()で
一人()、
辺()りをきょろきょろ。
「あたしだ!」
ベランダから
叫()んで、さっと
身()を
隠()す。
アキちゃんと
言()葉()を
交()わすのは
何()年()ぶりだろう。だけどノリは
昔()と
同()じ。あたしたち、ふざけるのが
大()好()き。そして
二人()ともシャイだ。
マスクをつけて、あっけなく
日()常()が
戻()る。アキちゃん
来()るかな~と
思()ったけど、
学校()が
再開()してもアキちゃんは
登校()しなかった。
休()校()中()あんなにしょっちゅう
出()されていたテントもデッキチェアもビニールプールも、あれっきり
見()かけない。もしかして〝
自()粛()〟してるのかもしれない。そうだとしたら、なんかちょっと
気()の
毒()。
あたしは
思()う。またアキちゃんが
躍()ってるとこ
見()たいなぁ。
ネイビーブルーの
空()に
丸()い
月()が
浮()かんだ三
月()の
夜()、アキちゃんが
全身()全霊()で
歓()喜()する
姿()は、
太()古()の
人々()の
儀()式()みたいに
神()秘()的()で、とても
美()しかった。
山内マリコ(やまうち・まりこ)
1980
年()生()まれ。2012
年()『ここは
退屈()迎()えに
来()て』(
幻()冬()舎()、のち
幻()冬舎()文()庫())でデビュー。
主()な
著作()に『
選()んだ
孤()独()はよい
孤()独()』(
河()出()書房()新()社())、『あたしたちよくやってる』(
幻()冬()舎())など。
『あのこは
貴()族()』(
集()英()社()文()庫())の
映()画()化()と、
雑()誌()「
CLASSY.()」の
連載()小()説()をまとめた『
一心()同体()だった』の
刊行()を
控()えている。
【
近刊()】