第23回/毎日一時間を犠牲にする覚悟

文字数 1,649文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


第1回はこちらから

 僕は、毎日インターネット上に日記を投稿しています。もう三年目。投稿した日記の数は1000が見えてきました。筆が乗ったらもっと長くなっていきますが、だいたい一日平均1500文字。内容にもよりますが、まあ一時間くらいはかけている。時には、書くことが無さすぎて2.3時間思い悩むことすらある。早く眠りたいのに、日記が投稿できない苛立ちと戦い続ける状態はたいへんつらい。これはもう苦行です。


 しかし、苦行であるからこそ得られるものがある。具体的には読者と自信。続けているとどんどん反応が増えて、いろんな方から感想だったり共感だったり、時には感動を与えたりすることも。自分の綴った文字で人の心が動く。これより嬉しいことはない。とはいえ、別に他人のためにやっているわけでもないので、主に後者の部分が重要であるように感じます。


 そう、自信。自己肯定感と言い換えてもいいかもしれません。日々、すごい人たちがすごい作品を供給してくる恐ろしい現代において、「自分には自分にしかない魅力がある」とアイデンティティを確立できることがなんとありがたいか。ふと気が緩むと負けてしまうでしょう、濁流のようにながれてくる情報の洪水に。そこで流されずに地に足をつけて堂々と仁王立ちできる人間。なんと立派なことだ。


 そりゃまあ数年、曲がりなりにも文章を書き続けるわけで、誰だって熟れてくる。


 こういった文で構成すると味がでる、緩急がつく、意外性をもたらす、他人が興味を持ってくれる……特に、僕はやっぱりその日に堪能した作品の感想や紹介を書くことも多いので、自分が大好きな作品のなにが素晴らしいかを言語化することに重きを置いております。理由はわからない。けれど、楽しいんです。嬉しいんですよ。僕が好きな作品を他の人も気に入ってくれる瞬間が。


 「そのために生きているんじゃないか?」と錯覚することすらある。現に、僕は毎日の日記に加えて、その月のベスト音楽や本も記事として投稿しています。これも数年やっている。楽しい……。いっぱい新しいものへ飛び込む原動力になるし、良いことずくめだ。これが僕が確信している数少ない「自己」だ。僕は、好きな作品の話をしているときが最も輝いている。


 あなたも騙されたと思って日記を書くといい。もちろん毎日の1時間は犠牲になる。そのうえお金になることもない。得られるのは、「なんだかんだ自分も文章が書けるものだなぁ」という自信。しかし、けっしてお金では手に入らないものです。


 修行なんだ。日々、なぜかスマートフォンやキーボードをカタカタして己と向き合う謎の一時間。現代で修行を積むなんて、なんと効率の悪いことでしょう! そんなことしなくたって楽に生きていける時代だぜ。それに、他人が書いた文章なんてSNSで無限にあるのに!


 だからこそ、だからこそである。こんな効率という「意味」や「実」に溢れた世界で、己と向き合う無意味な時間を過ごす。ある意味、もっとも贅沢な時間の使い方をしている。若者は動画を2倍速で消費する、タイムパフォーマンスなる概念が流行った今にだ。そういうことなのです。そこにあなたの自己肯定感がある筈だ。


 これを読んで、「自分もやってみよう!」と実践する読者は1割も居ないでしょう。その中で、さらに僕と同じく数年続ける人間も0.01%さ。でも、もしその僅かな数字になれたなら、あなたはその自信を胸にしながら肩で風を切って街を歩ける。街の住民たちは誰も日記を数年投稿していない。この空間での主役は間違いなくキミだ!

【本棚】


僕の家の本棚。細かく刻むより一気に見せることにしました。男だから。この時代に紙で保存しているのだから、それは選び抜いたお気に入りたちなのです。

来週も月曜深夜に更新予定です。それでは、おやすみなさい。

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