タビメシ道の極意①/岡崎大五

文字数 1,792文字

極意その1/「制服導入店を探せ!」

 旅とは、僕にとっては、人生最大の楽しみである。

 しかし特段何をするわけでもなく、町をぶらつき、メシを食い、昼寝して、時には執筆したりもするが、観光など気が向いたときにしか行かない。

 あとは終日、宿のまわりでウダウダしている。

 そして思えば35年、世界各地でウダウダしつつ、ひまに飽かせて探してきたのが、うまい地元メシである。

 一店ごとに、店構えや中の様子を観察し、外にメニューがあれば丹念に読み、メニューが外にないところでは、メニューだけを見るために店に入れていただき、気に入れば後日伺い、気に入らなければそのまま辞去して二度と行かない。失敬極まりないと自分でも思うが、世界の人々は、こんな旅人に鷹揚だった。

 多くの経験で得た「うまい地元メシ屋」の判断基準として、3つのポイントが挙げられる。

 1点目が、地元民が集っているかどうかだ。当たり前すぎるが、地元民に人気の店は、間違いなく安くてうまい。

 2点目が、清潔さだ。あまりにハエがぶんぶんたかっていたりする場合、いくら店主のおばちゃんに、はち切れんばかりの笑顔で誘われても断る。馴れ馴れしげに腕を引っ張られたりしたら、危険信号である。腐りかけの残り物を食べさせられかねない。

 そして3点目、これはアジアの特徴だろうが、制服導入店はまずうまい。こんな店は清潔で、ただ、日本のファミレスのようにシステム化されている店は多くなく、個人店での制服導入が目安となってくる。

 

 勤める側にしてみると、制服がある店なら、給料もちゃんと出そうで安心して働ける。店の一体感もある。みんなと仲良くなれる可能性も高まる。アジアでは、公立学校でも小学校から制服で、タイの名門チュラルンコン大学など、大学でも制服だ。ベトナムの白いアオザイが、女子高生の制服というのは、あまりに有名である。制服姿の軍人は、一部女子の憧れの的。ただ制服姿の警官は、悪さをするのでアジア各地で評判が悪いが、これは制服愛好国の中でも例外だろう。 

 一流企業は当然制服で、僕が勤めたタイの三流法律事務所でも、一流のふりをするために、無理やり制服を導入したくらいであった。すなわちアジア全域で制服は人気なゆえに、前向きな従業員が集まるという経営者側の打算もある。


 タイのチェンマイでのこと、店を探しあぐねた挙句見つけたのが、制服の店だった(写真下)。

※撮影場所:タイ・チェンマイ

 僕が店に入ったときは、やや時間が遅めで客は一人もいなかった。制服姿の店員は、みな、店内で突っ伏して昼寝していた。

 様子だけを観察するなら、どう見ても、前向きな営業姿勢には見えないが……。

 いや、それでも制服導入店にハズレなしの証拠固めも兼ねて席に着く。

 すると、昼寝していた店員たちが顔を持ちあげ、のたのたと起きだして、一人が注文を取りに来る。一人は水を用意し、一人は奥に調理人を呼びに行く。一人は蒸し器の前でスタンバイである。

 この時、注文したのが、『肉まん』と『チキンあんかけ焼きそば』だった。

 注文するや、すぐに肉まんが運ばれてくる。調理人が出てきてちゃちゃっとチキンあんかけ焼きそばを調理し、わずか五分で完成だ。

 食べるや、納得。間違いのないうまさであった。

 やはり「制服うまい店説」は、アジアのタビメシ探しの極意の一つであった。

 納得しながら食べ始めると、用の終わった調理人は奥へと下がり、店員たちは、また店の一角に集まって、突っ伏し、居眠りし始めた。

「こんなことでいいのか!」と突っ込みたくなる。


〈いや、人は、日々リラックスして生きる権利を持っている……それがアジアの生き方さ〉

 旅では教えられることも多いのだった。

岡崎大五(おかざき・だいご) 

1962年愛知県生まれ。文化学院中退後、世界各国を巡る。30歳で帰国し、海外専門のフリー添乗員として活躍。その後、自身の経験を活かして小説や新書を発表、『添乗員騒動記』(旅行人/角川文庫)がベストセラーとなる。著書に『日本の食欲、世界で第何位?』(新潮新書)、『裏原宿署特命捜査室さくらポリス』(祥伝社文庫)、『サバーイ・サバーイ 小説 在チェンマイ日本国総領事館』(講談社)など多数。現在、訪問国数は85ヵ国に達する。


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