[column]地味でいいんです!【プロ発掘人】が推す「縁の下の力持ち小説」4選

文字数 3,085文字

 普段は目立たないけれど、実はチームの要。いなくなって初めてその価値に気づく……なんて人、いますよね。もしかしてこれを読んでいる貴方も、職場や学校で“縁の下の力持ち”ポジションだったりしませんか?

 主人公自身が異世界で特別な力を持って強敵相手に無双しまくり大活躍!という小説はもちろん痛快で最高です。ですが、異世界だって社会です。みんながみんな、スターではない。仲間のサポートに徹する支援職や、ひたすらニッチだったり評価されにくい地味~な職業を選ぶ主人公がいたっていいはず!

 というか、実はたくさんあるんです、そういう“縁の下の力持ち”主人公がめちゃくちゃ面白い作品が!

●冒険者と異世界人の調停者――『ログ・ホライズン』より「シロエ」

 突然、オンラインゲーム『エルダーテイル』そっくりの世界に取り残されたプレイヤー約三万人。主人公「シロエ」はゲームと現実の違いに戸惑いながら、現地の人々「大地人」と共存しつつ、生存と帰還を目的に奔走し始める――。コミック、アニメ化はもちろんゲームにもなった大人気作。2021年、NHKでアニメ第3シリーズの放送を予定している。

 主人公のシロエは付与術師(エンチャンター)という、相手への妨害や味方のサポートをメインとした支援職に就いています。

 しかしこの“付与術師”、『エルダーテイル』内では戦闘力がゲーム内最弱、普段はまず日の目を見ることのない不人気職なのです。

 それがシロエの長年のゲーム経験と「腹黒」とまで称される情報分析能力の高さにより、敵味方のステータスやMPを管理し、戦況を読むことで30 秒先の未来を予測。パーティーの戦闘力を何倍にも引き上げることができます。

 一人では戦えず、生き延びられない。パーティープレイでこそ真価を発揮する主人公は、まさに縁の下の力持ちと言えるでしょう。

●安全な冒険のためのガイド――『迷宮道先案内人 ダンジョン・シェルパ』より「ロウ」

 迷宮道先案内人(ダンジョン・シェルパ)。それは、迷宮探索及び攻略を目指す冒険者たちの手助け――道案内兼荷物持ちを生業とする者たちの総称だ。若くして腕利きのシェルパであるロウは、王都で勇名を馳せるパーティ“宵闇の剣”と契約することに。それは、運命の相手であるユイカとの出会いでもあった――。「ニコニコ静画」にてコミック連載中&コミックス①②巻大好評発売中!

 「シェルパ」とは元々ネパールの少数民族の名称で、現地の山々に精通していることからヒマラヤ登山者の荷物運び(ポーター)やガイドとして雇われ、その職業の呼称でもあります。

 本作の主人公・ロウは凄腕の「ダンジョン・シェルパ」。

 迷宮の案内人であるロウはモンスターと戦いません。あくまで顧客=冒険者たちが安全にダンジョンを攻略できるよう、階層ごとに出現するモンスターの案内や新規のエリアでのマッピング、回復薬などのアイテムの提供をするサポート役です。

 雇われて冒険に同行するシェルパはパーティーの一員ではありませんが、その豊富な知識がパーティーを不測の事態から救い、苦難を共にするうちに絆が深まることも。

 ユイカとロウが惹かれ合ったように、周りのサポートに徹するあなたを評価している人が、実は近くにいるかもしれません。

●へっぽこパーティーのまとめ役――『この素晴らしい世界に祝福を!』より「カズマ」

 死んで異世界に行くことを勧められた「ヒキニート」のカズマは、自らの死に様を馬鹿にしてきた女神・アクアを腹いせに道連れにする。異世界に降り立った二人だが、冒険は順調には進まない。性格も性癖もアレな、あちこちで騒動を起こすパーティーメンバーを率いて渋々ながら行動するが、結果として魔王と対峙するまでにのしあがっていく。累計1000万部目前、2019年には劇場版アニメも公開されたロングランシリーズ。

 『このすば』の主人公カズマの職業は、最弱職、初期職業と呼ばれている「冒険者」です。

 冒険者は制限なく様々な系統のスキルや魔法が使えるものの、どれも本職には到底及ばず、新しいスキルを取得するにもコスパ最低。突出した能力がない……浅く広くのオールラウンダーともいえるかもしれませんが、実に中途半端です。

 へっぽこ勇者のカズマに対し、三人の仲間は全員が美少女で上級職。

 ぱっと見最高のパーティーですが、運と知性が低い甘ったれの駄女神に、必殺技にこだわりすぎて実戦で使えない魔法使い、不器用すぎて攻撃が全く当たらず、むしろドMで敵の攻撃に当たりたがる聖騎士……と、性格・性癖クセ強すぎ。そんな彼女たちを時に脅し、時に籠絡し、時になだめすかしてカズマは引っ張っていきます。

 でこぼこパーティーの「無双できない」ドタバタ劇は、ダメダメながらも一緒に冒険したくなるような楽しさに溢れています。

●実はパーティー戦力の9割を担っている?――『斥候が主人公でいいんですか?』より「アルバ」

 斥候のアルバは、冒険者パーティー【鷹の目】の男たちから“役立たず”という理由で追放されてしまう。しかしそれは全くの見当違い。斥候を欠いたパーティーが陥る窮地とは――?地味な風体、特技にも華がない。けれど斥候は、実はパーティーの要だった!? ファンタジー世界の“縁の下の力持ち”が輝く冒険譚。

 最後にレジェンドノベルス最新作、発売直後に緊急重版(祝!)となった話題作をご紹介します。

 「斥候」は迷宮攻略時に先回りして罠の解除を行ったり、敵の群れを把握する支援職。パーティーはそれをもとに戦闘プランを立てます。奇襲を打つには必須の存在、だけど実戦では大した働きをしていないように見えます。

 ……でもですね、スポーツの試合や仕事のプレゼンで、事前の準備――傾向と対策ってとても大事じゃないですか。斥候はいわばその「準備担当」。

 作品冒頭でアルバを追放した男たちには理解されませんでしたが、後衛の女性陣にはその重要さが分かっていました。

 斥候としても優秀ですが、日々の鍛錬も手を抜かず、時に仲間が驚くような技も飄々と繰り出すアルバ。

 小説第2話で、【鷹の目】はアルバと彼を信頼する女性4名の「ハーレムパーティー」になるのですが、各戦力の調和がとれて小気味いい冒険が読めます。

 そしてその調和を破るお騒がせキャラが、とんでもないどんでん返しをもたらすのですが……それは読んでのお楽しみです!



 


 バランサータイプ、おっとりオブザーバータイプ、コツコツ職人タイプ……縁の下の力持ちにもいろいろありますが、そんな主人公が人類を危機から救い、世界の理を変えてしまうファンタジックな冒険物語、つい感情移入しながら夢中になってしまいますよね。そう! マイナー職種が主人公で「いいんです」よ!

書誌情報

『ログ・ホライズン』

エンターブレイン刊

著:橙乃ままれ イラスト:ハラカズヒロ

四六判/定価1000円+税



『ダンジョン・シェルパ 迷宮道先案内人』

レジェンドノベルス刊

著:加茂セイ イラスト:布施龍太

四六判/定価1200円+税



『この素晴らしい世界に祝福を!』

角川スニーカー文庫刊

著: 暁なつめ イラスト:三嶋くろね

文庫判/定価640円+税



『斥候が主人公でいいんですか? 失敗知らずの迷宮攻略』

レジェンドノベルス刊

著:神門忌月 イラスト:じゅん

四六判/定価1200円+税


【作品選定・解説】


堀敦史

 レジェンドノベルス専属プロスコッパー。これまで2万作を超えるネット小説を読破し、優れた作品を見出してきた。NOVEL DAYSの各種コンテストの選考にも参加。(執筆協力:藤澤千尋)


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