第103回

文字数 2,251文字

実はこの連載はもうすぐ最終回を迎える。

よく「ひきこもり」というワンテーマだけで100回以上ガタガタ言うことがあったと思う.

普通なら3回ぐらいで昨日見た夢の話が始まるところである。


しかしこれこそが、ひきこもり問題がなかなか解決しない原因と言って良い。


もはや原因が見当たりすぎて、どれなのか見当もつかなくなっていると思うので答えを言うが、家から一歩も出ずとも「ひきこもりについて100回ガタガタ言う」などのやることがあり、それをインターネットなどに発表すれば誰かしら相手にしてくれる人間、もしくは相手にしてくれる人間の幻覚が現れてしまう、という点である。


つまり昔に比べて「家から出ずにできること」が格段に増え、むしろ家から出なくても生活できるようになってしまったことが、ひきこもり問題発生の原因と言っても過言ではない。


今多くの人が嫌々働いているのは、働かないと生活できないからである。

働かないで生活できるなら大体の人は働くのを止めるだろう。

それと同じで、これまで外に出ないとできないことが多かったため嫌々外に出ていただけで、それが出ずにできるとなったら、嫌々出てた勢が出てこなくなるのは当たり前である。


そういう勢に「外に出ろ」と言うなら返す刀で放たれる「何のために?」に対するアンサーを用意しておかなければ相手は瞬時に論破を確信した時のひろゆきフェイスになるため、「暴力」というアンサーでポリス沙汰になってしまう。


人生の選択肢が増えた現在、どれだけ少子高齢化を解決しようとしても、結婚して子供を産まなければ出家か山姥になるしかなかった時代まで出生率が戻ることはほぼないだろう。


戻そうと思ったら「選択肢はクソほどあるが、その中でも結婚して子供を作るのが一番アツい」と国民に思わせる国にするしかないが、残念ながら日本はアツいように見えないし、正直サムいまである。


それと同じようにひきこもりも、家から出ずにある程度暮らせるようになった今、数を減らそうと思ったら「中より外の方がアツい」世界観にするしかない。

逆にいえば、昔ひきこもりが問題になるほど存在しなかったのは、家の中がサムかったからでもある。

人間にとって一日中やることもなく、話す相手もいない状態で長時間過ごす、というのはかなり苦痛なことであり、相当なガッツがなければそんなことを数十年も続けられないのだ。


ひきこもりは根性のない人間がなるものというイメージがあるかもしれないが逆であり、実はかなりのマッチョでなければ続けられないのが昔のひきこもりだったのである。

よって根性のないもやしどもは、最初は良くてもすぐに「こんな生活耐えられん」と、外に逃げ出していたのだ。


だが、ネットの普及により、家の中で時間を潰す方法は激増し、他者とのコミュニケーションもネット上で行えるようになった。

むしろ、外で他人と関わるよりネット上ので関わる方が難易度もストレスも低いのである。


サムかった家の中が技術の進化により外より温まってきてしまったなら、暖を求めて人口が増えるのは当たり前である。


よってひきこもりを減らしたいなら、昔のように家の中をサムくする必要があるのだが、正直家の中の方がアツくなる一方である。


何せコロナの影響で、好むと好まざるとに関係なく強制的に家の中にいることを余儀なくされていったのだ。

その状態で、人々がメンをヘラないようにし、さらに経済をストップさせず、あわよくば企業が利益を出そうと思ったら、家の中を激アツにしていくしかない。


結果家の中でできることはさらに増え、むしろできないことを探すのが困難な状況となってしまった。

こんな状況でひきこもりの数を減らそうと思ったら、一度文明を滅ぼすしかない。


つまり引きこもりの増加は技術の進化と時代の流れによる必然であり、これを止めるというのは洗濯機や炊飯器の普及を止めるぐらい無理である。


よってひきこもりの数に目を向けても仕方がない。「そんなもの増えるに決まっている」からだ。

それよりも、ひきこもりが引き起こしている問題と、その解決策を考えていかなければいけない。


逆にいえば問題を起こしていないひきこもりは「ほっとけ」ということであり、そういう引きこもりの生き方に文句をいうのは、結婚出産をしない選択をした人間に「昔はそんなこと許されなかった」と説教するに等しい。


そういう「新しい生き方」に文句をいう人はいつの時代も存在する。

だが、それに屈せず自分の生き方を貫く人間がいるから「新しい生き方」は「当たり前の生き方」として受け入れられていくのだ。


この先生まれてくる子供たちが当たり前のようにひきこもれる未来を作るため、これからも私はさも当然のようにひきこもっていきたいと思う。


今日も一歩も外に出ず、誰とも話さず、ひきこもりについてガタガタいう文章を書くだけで1日が終わってしまうが、これが子供たちの明るい未来につながると思えば、辛いことなど何もない。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色