「群像」2021年5月号

文字数 1,679文字

編集後記は、文芸誌の裏方である編集者の顔が見えるページ。

このコーナーでは、そんな編集後記を選り抜きでお届けします。

「群像」2021年5月号より

今号の創作も長短さまざま、バラエティに富んでいます。川上弘美さんと町田康さんの短篇は、リニューアル創刊号以来の連作でもありますが、もちろん読み切りとしても。本文のおもしろさとは別に、毎回のタイトルがどうなるのかや神々にニックネーム(邇邇とか)をつけたりすることも個人的な楽しみだったりします。中篇一挙掲載が三作。松波太郎さん「王国の行方―二代目の手腕」、藤代泉さん「姫沙羅」、群像新人文学賞受賞後第一作となる湯浅真尋さん「導くひと」。いずれも熱のこもった力作です。


◎小特集「旅」も、創作から。上田岳弘さん、倉数茂さん、津村記久子さん、藤野可織さんにテーマをお伝えして短篇をお願いしました。アンケートは「想い出の駅」。51人の駅にまつわる記憶を辿ると、より思うはずです。日常を飛び出して旅にでたい―このコロナ禍、みなさん気持ちは同じだと思いますが、身体的にはまだ我慢して、心の旅のおともに。


◎新連載が三つスタートします。星野太さん「食客論」は、友でも敵でもない曖昧な他者=パラサイトについての探究(隔月予定)。三木那由他さんの「言葉の展望台」は、日常的に使われている言語やコミュニケーションを見つめていく思索。アメリカ在住の「Z世代」である竹田ダニエルさんが世界の今を綴る「世界と私のAtoZ」と、「群像」にまた読み応えのある連載が加わりました(今月から、表4までデザインできることになり、強力連載陣の名前がすべて見られます)。


◎批評は樫村晴香さんの読み切りと、山本圭さんによる「嫉妬論」。


◎不定期で掲載され好評だった、辛島デイヴィッドさんの「文芸ピープル」が単行本になりました。辛島さんとも交流が深い、吉田恭子さんと小野正嗣さんに、刊行記念鼎談を。英語圏の「文芸ピープル」についてのお話は知らないことばかりで、自分と直接地続きでなくても、考えるヒントになるはずです。


◎分倍河原のマルジナリア書店で行われた、小川公代さんと中村佑子さんのオンライン公開対談を完全文字化。ケア、マザリング―不可視化されている場所を探し当てるには、やはり言葉と対話が必要なのだと痛感する、必読の対談です。


◎「ユーラシア」という概念を通して「中華圏」の新局面に迫った福嶋亮大さんの「ハロー、ユーラシア」が完結(今年後半に単行本になります)。


◎「DIG」で佐々木雄一さんが迫るのは、『戦争の日本近現代史 東大式レッスン! 征韓論から太平洋戦争まで』です。


◎第64回群像新人文学賞の予選通過作品を発表しています。今回もたくさんのご応募ありがとうございました。最終選考会ののち、受賞作は次号掲載となります。


先月発売の4月号は創刊70周年記念号以来の完売となりました。書き手はもちろんかかわっていただいたすべてのみなさまに感謝申し上げます。重版、ということも当然考えるのですが、月刊誌でかけるにはハードルが高いのです、すみません。いつもお伝えしていることですけれども、この分厚い雑誌をひと月で読んでいただくのは大変です。そのぶん、いつ読んでも「いま」を感じられるような、時間的にも内容的にも幅のある作りになっております。数もそんなに多くはないので、書店で見つけたらぜひお手元に。時間をかけてゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。ゆっくり=slowつながりでいうと、先月末から、ノンフィクション・調査報道に特化したサブスク型webサービス「SlowNews」に、「群像」も参加していて、3月・4月号掲載の古川日出男さん「国家・ゼロエフ・浄土」がまず配信されています。立ち止まって考える、新しい「場所」ができそうです。


今月もよろしくお願いいたします。


(「群像」編集長・戸井武史)

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