変態文学大学生の魂にクる!「読む桃源郷」

文字数 2,600文字

「まさか官能小説で泣くなんて!」

冲方丁さんが名前を変えて刊行したことでも話題の官能小説集『破蕾』が大好評発売中!

この注目作を、性愛小説をこよなく愛する北大生・吉行ゆきの@変態文学大学生さんが、独自の視点で読み解き、熱く語って下さいました!!

SFや歴史・時代小説を手がける冲方丁先生が初めて官能小説を書いた・・・!

ということで、性愛に関する小説ばかり好んで読み続ける変態文学大学生が、江戸を舞台にしたこの官能小説『破蕾』を読んでみました。

(※文庫『破蕾』の著者である「雲居るい」は冲方丁さんの別名義。)



性愛小説至上主義の私には、「魂にクる」性愛小説ポイントというものが明確にあります。

それは、「エロの必然性」「現実からの解放」「多様なジャンル性」であります。

今回はそれになぞらえて『破蕾』をレビューしていきます。



◆いかにして「エロ」に「言い訳」するか?


これがないと「官能」に没頭できない要素ナンバーワン。

『殺し屋1』のピアスのマー坊の言葉を借りると「必然性」。

またの名を「言い訳」。


昨今、「緊縛」が謎に認知度を高め、それがもたらす「解放感」「不自由だからこそ感じる自由」みたいな謎論理を聞いたことがある人も多いでしょう。


だけど、どうして「不自由」は「自由」なんでしょう?


そこに「言い訳」の秘密が潜んでいます。


『破蕾』収録の一篇目、「市中引廻しの花道」は、主人公が騙されて罪人の身がわりになり、緊縛された状態で市内を晒し者として連れまわされる話。


身動きひとつ取れず縛られて刑を受ける主人公は、この圧倒的不条理な状況に、少しずつ陶酔していく。


なぜか。


それはきっと、「私は嫌なんだけど運命が仕方なく・・・」という言い訳ができるからだと思うんですよ。

「身動きがとれないくらい不自由」

つまり、「私が望んだことじゃないもんね・・・」と「言い訳」できる。


「言い訳」ができるから、真に解放された状態で性の喜びを感じられる。

「緊縛」も同じで、誰に見られたって、もう自分じゃどうにもならないわけで・・・


自尊心が発達してしまった我々人間は、そういう「言い訳」があって初めて心の底から「官能」に身を委ねられる。

そういう状態を「身代わりの刑罰」「騙されて捕縛」というもので作りあげた「市中引廻しの花道」は、我々困った人間たちを、滑らかに官能の世界へ引き込んでくれます



◆いかにして「天国」に行くか?


性愛小説って結局は「解放の文学」だと思ってます。

官能・悦楽・絶頂、そういうモノ表現するときに、よく現れてくるのが、「天国」「夢」そして『破蕾』では「桃源郷」・・・


『破蕾』の世界・身分制度の色濃い江戸時代でなくとも、我々人間は常に「現実」に脅かされています。

「現実」というものには、「味気ない」「厳しい」というイメージがついて回るもの。

その「現実」から手っ取りばやく逸脱する方法が、「エロ」なのかもしれません。


『破蕾』収録の二篇目「香華灯明、地獄の道連れ」では、人々に桃源郷のような性の悦楽を与える「芳乃」という女が主人公です。


彼女の放つ薫香と、編み出す「遊び」は、どれも人々の感覚を刺激し、

“まるで現実とは異なる理屈で成り立っている夢幻の中にさまよい込んだ気分”

にさせます。

その「桃源郷」は同時に「芳乃の蟻地獄」でもあるのですが、人々は分かっていながら抗えない。


「遊び」のひとつ、芳乃式「競馬香」なんか、モノすごい。

香料を肌の至るところに塗って、別の人物がその香りを目隠しして鼻だけで感じ、どの人物に塗ってあったかを当てる。

勝った方は、景品としてすごろくで選ばれた人物を手に入れ弄ぶ。

この「遊び」ひとつとっても、思わず「そっちの世界にいかせてくれ・・・」と思ってしまう。


『破蕾』の中のお話は、そういう「現実からの解放」をしっかりと味わわせて、我々想像力豊かで欲望満載の読書家たちを満足させてくれます。



◆いかにして「生き抜く」か?


性にはじまり、生に終わる・・・

私が「性愛小説」を特に好む理由です。

「スゴイ性愛小説」は、「性」から「生」にかけて、多様なジャンルに属するものです。


『破蕾』の中の三作品は、ひとつの事件で繋がった物語なのですが、三人の主人公は三者三様、己が人生を強く生き抜きます。


「性」に流される、というのではなく、むしろ「性」に目覚めたことにより、「生き抜く」ことに真摯になるのです。

「親子」の関係に苦しんだり、「身分」というものにうんざりしたり、そういうものにも、「性」に目覚めた女たちは他の人間よりも真剣です。

その点、「親子の物語」としても読み応えがあるし、「身分制に苦しむ女の解放」として勇気づけられもする。

むしろ、様々な悩みを抱えながらも「生き抜く」上で、素敵な刺激を私たちにくれるのです


『破蕾』は、単に「エロい」だけじゃない性愛小説として、変態文学に偏りまくった愛をそそぐひねくれた私にも響き、更には「官能小説ってエロいだけでしょ?」と思ってるような人の考えも覆してくれるような作品でした。


そうして、読後、桃源郷から現実に戻される私たちへ、素敵な「贈り物」となるのです。

吉行ゆきの@変態文学大学生

「文学」と「変態」と「酒」を偏愛する北大生。主にTwitterで活動し、全国で無駄にリテラシーの高い変態文学イベントなど開催。ミスiD2021受賞。

Twitter(https://mobile.twitter.com/onitannbi

運営サイト:「実践×文学」(https://decadence666.com

Instagram(https://www.instagram.com/onitannbi/
『破蕾』 著:雲居るい


※「雲居るい」は、冲方丁さんの官能小説家としての別名義。

詳しくはコチラ

まさか、官能小説で泣くなんて!!!

山科理絵豪華挿絵付きでおくる、禁断の「時代×官能」絵巻!



旗本の屋敷に差し入れを届けたお咲。不相応な歓待に戸惑う中、ある女に科せられた「市中引廻し」の身代わりになれと命じられる。驚く間もなく緊縛された彼女を待ち受けていたのは、想像もしなかった淫靡な運命だった――「咲乱れ引廻しの花道」。他3編を収録。


業に囚われた女たちの切なく儚い性を描いた傑作官能連作集!

購入はコチラ

吉行ゆきの@変態文学大学生が描くエッセイはコチラ!!

「青春を変態に賭けて」吉行ゆきの@変態文学大学生

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色