第3回
文字数 2,439文字
新型コロナウイルスの影響で今「家から出ない」ことが何より尊ばれている。
つまり、時代が突然「ひきこもり」に追いついたとも言えるのでは?
ソーシャルディスタンシングを常に実践、かつ#Stay Homeでこそ輝く彼らにこそ学ぶべき。
脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする困難な時代のサバイブ術!
コロナウィルスの影響により、世界中が強制ひきこもり生活になってしばらく経つが、最近「アルコール依存」の相談が増えてきているという。
他にも運動不足による体重増加など、ウィルス以外の健康被害も深刻化しているようだ。
おそらくこれは、ひきこもり慣れていない、もしくはひきこもりに向いていない人間に多く出ている影響ではないかと思う。
家に一人で何もやることがないという場合、人間は何をしだすかというと大体「①食う」「②飲む」「③G」の三択になる。
Gが何かわからないという方は「ゴリラ」と思っていただければよい。
胸部を激しくドラミングし、昂った気持ちを鎮静化させるという瞑想とほぼ同じリラクゼーション行為である。
運良く③に落ち着いた人は、健康にもなるし脳も活性化されて良いことしかない。
男の場合やりすぎると体に悪いという説もあるが、女の場合本当に良いことしかないそうだ。
もちろん女の方が胸部が柔らかいので、ドラミングによるダメージが少ない、という意味だ。
そして①②③に飽きたり疲れたら「寝る」の繰り返しになるのだが、③以外だと「食っては寝る」「酒を飲んでは寝る」という非常に不健康な生活サイクルになってしまう。
よって、ひきこもり生活はG(ゴリラ)を極める、もしくは①②以外で時間を潰す術を持つことが非常に重要となってくる。
今回、それを見つける間もなく、突然ひきこもりにさせられた人間は、運良くゴリラ化、もしくは何かやることを見つけられた者以外、①②に陥り健康を害してしまっているのではないだろうか。
その点ひきこもりは、家で一人時間を潰すことに関しては一日の長がある。
もしくはすでにとりかえしがつかないほど健康を害しているので、今回の外出自粛で健康を害したというひきこもりは実質0なはずである。
むしろ「おいおいAKIRAが無料公開かよ」と、言い方は非常に悪いがコロナバブルを感じているひきこもりもいるかもしれない。
このように「家から出ないで一人で無限に時間をつぶせる」というのは、ひきこもりの長所の一つである。
しかし、このような緊急事態宣言下でなければ、そんな能力あんまり使わないだろうと思うかもしれない。
しかし、家でやることがなく、日中から酒を飲んで健康を害すというのは「定年後」にも良く見られるパターンだという。
仕事ばかりしていたため、突然ずっと家にいろと言われても、何をして良いかわからず、とりあえず飲んでしまうのだ。また、年を取ると、体力も衰えて外に出るのも億劫になりがちだ。
さらに若いころは「1日5ゴリラ」というような時間の潰し方もできたが、老になるとそれも難しい。食うのもそれほどできず、結局飲んで寝るという、超高速NTRルートに陥りがちなのだ。
NTRとは寝取られではない「寝たきり老人」である、むしろ老になっても寝取られジャンルが楽しめるなら安心だ。
現在外出自粛で、アルコール依存など、健康を害し気味な人は、これを乗り切っても、老後同じことになりかねず、老になると当然、病気や認知症、死のリスクが高まってくる。
よって、むしろ今を老後の予行練習と思って、酒に頼らず、過剰に食ったり寝たり、昼夜を逆転させずに過ごす術を身につけておいた方が良いのではないだろうか。
では、ひきこもりの先人たちがどのように家の中で酒も飲まずに過ごしているか、というと人によるのだが、やはりネットを有効利用しているパイセンが多い。
もちろん2兆円さえあれば、地下に闘牛場を作るなどして、いくらでも家から出ずに時間を潰せるが、大体の人は2兆円もっていない。
実際、アルコール依存だけではなく、ひきこもり生活により通販や取り寄せグルメにはまって経済的にも破綻する人間も出ているらしい。
確かにネットにより、家にいながら無限に金を失えるようになったのも事実だが、ネットにはyoutubeや、俺たちのピクシブなど、無料で永遠に時間を失うことができるツールも多い。
だがひきこもり慣れていないと、そういうものがあるという事すら知らなかったりするので早くからそういった「ひきこもりお得情報」を得て、それを使いこなせるようになっていることが重要である。
またある程度、家の中に投資をしておくことをお勧めする。
私は、家から出るのが嫌すぎるため、去年数万円の室内ウオーキングマシーンを購入したのだが、そのおかげで図らずも外出自粛状態になった今でも、毎日1日1時間のウオーキングが出来るという、圧倒的勝者となった。
このように、今のような状況のためだけではなく、将来にそなえて、健康的なひきこもり生活が出来るように、整えておいた方が良い。
では、老後も今のようにひきこもりが圧勝か、というとそうでもない。
ひきこもりは、外部との接触が少ないため、何かあった時、誰にも気づいてもらえないという致命的欠点がある。
つまり、今問題になっている「孤独死」になりやすいのは圧倒的にひきこもりの方なのである。
つまり、今社交的な人はひきこもり能力も身に着ければ、最強ということだ。
ひきこもりが、社交性を身に着けるより5億倍簡単だと思うので、頑張ってほしい。
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。モーニングにて最新作『ひとりでしにたい』連載中。