第81回

文字数 2,476文字

冬と思いきやあったかくなってきた。


令和ちゃんが季節のスイッチを切り替えミスった感じですが(今年何度目)みなさまいかがお過ごしでしょうか。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

これを書いているのが10月30日、つまり明日はハロウィンと呼ばれる日である。


陰キャにとってハロウィンというのは男子校にとってのひな祭り、無職にとっての勤労感謝の日ぐらい無関係に思うかもしれないが、この季節になると刀剣乱舞以外のソシャゲは大体ハロウィン限定キャラを出すため、そんじょそこらのパリピよりも我々の方がよほどソワついているのだ。


このように、陰キャと陽キャは文字通り戦っている次元が違うので、もはやリア充と非リア充を比較するような異次元バトルはナンセンスなのである。

お主は渋谷のスクランブル交差点でコスプレ、拙者はスマホの前で白装束、戦場は違えどお互い健闘を祈るのが正しい平和国家の姿である。


しかし、緊急事態宣言が解除されてからまだ日も浅く、ワクチン接種も全国民完了したとは言えない情況である。

そんな中、コロナ前のようにハロウィンに人が集まるかどうかは未知数なのだが、今まで抑圧されていた鬱憤が爆発し、渋谷には暴徒と死霊が溢れるので、家から出ず、嫁と娘は地下へ隠した方が良いという人もいる。


まず人々が魑魅魍魎と化すぐらい鬱憤が貯まっていたということに驚きである。

確かに店の入口で、自動ドアのみならず、額をかざす系の体温計にまで永遠に無視されるなどコロナ時代特有の苛立ちも多々あるのだが、外に出られない、大勢で集まれないというコロナ最大の弊害について、自分はほぼノーダメであり「むしろ回復した」まである状態である。


このように、コロナで受けたストレスというのは人によって全く違い、むしろコロナ禍のライフスタイルの方があっている、という人もおり、コロナが明けて復活するであろう出勤や飲み会のストレスに耐えられるかの方を心配している人も多いのではないかと思う。


ちなみに飲み会に関しては酒が飲めない人は、酒は飲めないが鳥軟骨が好きという人を除いて、なぜ皆がこんなに飲み会ができないことを嘆いているかが理解できないという。


以前は「酒が飲めないなんて人生損している」などという言葉もあった。

実際は酒が飲めたほうが醜態を晒したり、物や記憶、人望を失ったり、便器と一体化したまま休日を終えたりと損する機会が格段に多いのだが、息が臭い奴にそんな説教をされなきゃいけないという時点で損であり、鳥軟骨を大量に食う人以外は割り勘が割高になるという金銭的損もある。


しかし、コロナウィルスが現れたことにより、約2年間「飲み会ができないストレスを受けることがない」という得があったわけである。

つまり「酒が飲めない」ということが長所になったということだ。


ひきこもりも以前なら良い点は何もなく「どれだけ外に出ず、人に会わなくても平気」と言っても、一体それが何の役に立つのだと一笑に付されてきたが、実際にそれがこれ以上なく役に立つ世界になってしまったのである。


昨日の敵が今日の穴兄弟、俺とお前とクソビッチ、というように情況というのは一夜にして変わり、状況が変われば価値観も変わり、昨日まで短所だったことが長所になっていたりするのだ。つまり現在持っている短所は全て長所にもなり得るということである。


しかし、短所を長所にするためにパンデミックを起こすのは大変だし「パンデミックを起こせる」という長所があるなら、もう十分だろう。


わざわざパンデミックを起こして世界ごと変えてしまわなくても、何が良しとされるかは環境によっても変わるのである。

すきっ歯がコンプレックスであれば、それに悩み続けたり、歯科矯正をするより、前歯の隙間がでかい女ほど美しい、という部族に入った方が手っ取り早いという場合もある。


今回のコロナ渦で調子を悪くした人も多いとは思うが、逆にパフォーマンス上がったという人も少なくないと思う。

つまり「適材適所」がいかに大事かというのが、コロナによって得られた大きな学びの一つである。ちなみに一番大きな学びは「月イチで行われていた謎の会議を開かなくても全く影響がなかった」など、今まで「不要不急では?」と思われていたことが「マジで不要不急だった」と判明したことである。


せっかく学んだのだから、経営者や人事担当の方はコロナが去った後、在宅ワークで才覚を発揮した社員を再び出社させて元のボンクラに戻したり、何事もなかったかのように月イチで会議を再開させないようにしていただけると幸いである。


ひきこもり問題も、ひきこもり本人を矯正するのは並大抵のことではないので、それよりもひきこもったまま出来ることをさせたり、社員一同誰とも目を合わそうとせず、飲み会はあるけれど幹事含め全員欠席なので中止、ステイホームしか勝たん職場を与えた方が早いし、そっちの方が活躍する可能性すらある。


明日のハロウィンだって、陽キャが楽しそうに見えるからと言って陰キャが参加しても全く楽しくないし、最悪クラスターになるだけだ。


それよりもソシャゲ、もしくはハロウィンなど無視して、選挙速報の下に流れる候補者の面白プロフィールをキャプチャして、ツイッターに挙げる簡単なお仕事をしていた方が輝くタイプもいるのだ。


輝こうとするのも大事だが、自分が輝けそうな場所を見つけることも大事なのである。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は11月19日(金)です。

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