覗いたのは性愛か地獄か。名作「のぞき小説」はエロくてヤバくて面白い。

文字数 918文字

↑静川文一
アンリ・バリュビュス『地獄』


開高健がめちゃくちゃにオカズにしたというアンリ・バリュビュスの『地獄』という"性愛小説"をご存知だろうか? 


Twitterで知り合った、怪しげなインテリ変態紳士に教えてもらったのだが……知名度(低い!)の割に私の中ではかなり人生に大きな影響を与えた本となった。


内容は単純明快。長期滞在を決めたホテルの部屋の壁に「穴」が…! しかもその「穴」からは、隣の部屋が覗けるのであった…!という性愛小説らしい設定。


しかしその内容の複雑なこと……。主人公は、壁の向こうの、他人の恋愛・性愛事情を盗み見るうちに、人間の、どこまでいけども解消されない「孤独感」を思い知らされる。


という、「覗き見→エロい!」だけではとどまらないヤバめ主人公の言葉が、同じくいい年こいて本ばかり読んでいる「ヤバめ」な我々にめちゃくちゃ響く


例えば、覗いた先のある夫婦の話。常に死について考えを巡らせる妻に対して、「神経衰弱」と指摘した夫。その夫に対して、妻は、「夫のほうこそ、冷静や無関心の病気にとりつかれている」と指摘する。


これは「ヤバめ」私たちからするとめちゃくちゃ納得する言葉。「考えすぎだよ」「もっと楽観的に」「普通そんなことで悩まないよ」 言われたこと、めちゃくちゃありません?


でもね、そうやって言ってくる人の方が「冷静や無関心の病気」なんだ、と。アンリ・バリュビュスは言ってくれたんです。


そういうわけで、単なる"性愛小説"では終わらない「ヤバい」本、『地獄』、めちゃくちゃ面白いです

『地獄』アンリ・バルビュス/著 田辺貞之助/訳(岩波文庫)
吉行ゆきの@変態文学大学生

「文学」と「変態」と「酒」を偏愛する北大生。主にTwitterで活動し、全国で無駄にリテラシーの高い変態文学イベントなど開催。ミスiD2021受賞。

Twitter(https://mobile.twitter.com/onitannbi

運営サイト:文学マニアック(https://decadence666.com

インスタグラム(https://www.instagram.com/onitannbi/

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色