令和が舞台の昔ばなし

文字数 1,422文字

 桃太郎や浦島太郎のストーリーを勝手に変えたり、その後を創作してみたり。そんな体験は誰もが一度はあるのではないかと思う。かくいう自分もまさしくで、小さい頃はよくやっていたものだ。
 特に祖母の家に泊まった日などは、祖母が布団の中で昔ばなしをしょっちゅうそらんじて語ってくれていた。が、おとなしく聞いているのは最初だけ。ぼくは祖母の話を勝手にさえぎり引き取って、桃太郎を道半ばで挫折させたり、お供の動物を増やしたり、鬼の武力を拡大させたり。無論それらはひどく拙いものだったはずだが、居合わせた弟やいとこたちはお腹を抱えて笑ってくれて、満足したぼくはいつしかぐっすり眠りについた。自分にとっての創作の原体験のひとつである。
 本書で行ったことは、そんなかつての自分がしていたことと本質的には変わらない。挑戦したのは、日本昔ばなしの二次創作。ただし個人的な好みから、元ネタとなるお話のつづきや架空の裏話をつくるのではなく、アイデアやストーリーのエッセンスをもとに、元ネタとは独立した形で現代を舞台に描き直すということを試みた。
 たとえば、一寸法師から生まれた「一寸上司」。身長が本当に一寸、つまり三センチほどしかない上司が会社にいたら? 浦島太郎から生まれた「RYU-GU」。スポーツジムで“いじめられ”、“悲鳴を上げていた”筋肉を助けたら? 笠地蔵から生まれた「ピン」。単に自分が下手で倒せなかっただけのボウリングのピンが、情けをかけてもらったのだと勘違いして人の姿で恩返しにやってきたら?
 これらの話が、かつての自分を楽しませるようなものになっていればいいなと思う。と同時に、大人になった弟やいとこたちがどんな反応を見せるのかも気になるところだ。
 昔みたいに楽しんでくれるだろうか。あるいは鼻で笑われて終わりだろうか。
 いずれにしても、話を披露するのは当時と違って寝る前だけはやめておいたほうがよさそうだ。
 こちらは今や、じつにか弱い大人のメンタル。
 もし不発なら、ぐっすりどころか、きっと朝まで眠れない。



田丸雅智(たまる・まさとも)
1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。’12年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。書き方講座の内容は、’20年度から小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用。’21年度からは中学1年生の国語教科書(教育出版)に小説作品が掲載。’17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』「おとぎカンパニー」シリーズなど多数。メディア出演に「情熱大陸」「SWITCHインタビュー 達人達」など多数。
田丸雅智 公式サイト:http://masatomotamaru.com/

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み