かつて高校生だった

文字数 1,211文字

 高校生を主役にした青春ものを書きませんか。
 そんな風に当時の担当編集の方から声を掛けていただいたのが2013年のことでした。
すでに高校時代など遥か時の彼方へと過ぎ去ってしまっていた私は、まだ締め切りを破ったこともない、いかにもデビューしたての作家という風情で編集部の椅子に座り、ぽかんとしていたと思います。私の思いを正確にくみ取ったのでしょう。編集さんが、「大丈夫、高校生ってそんなに変わってないから」と請け合ってくださったのをよく覚えています。
 青春というのはやはり人生の特別な季節で、自意識は頰と同じくらいぱんぱんに漲っているし、その自意識のせいで精神の重心が大いに傾いているしで、決して輝かしい時代とも言い切れないものがある。ありますよね? そういう意味では、やはり普遍性というものは存在していて、いざ執筆に入ってみると、自分で思っていたよりもずっと、青春はまだ自身の近しい場所に存在していました。いえ、ふすま一枚隔てた向こうほど近かったかもしれません。
 この度、色々な幸運が重なり、この『ベンチウォーマーズ』を再び世に送り出していただける運びとなりました。主役は5人の高校生で、彼らが、スポーツ大会の駅伝メンバーに選ばれたところから物語が動いていきます。属性の違う彼らのたった一つの共通項、それは、全員が、部活動でベンチをあたためるだけのベンチウォーマーだったこと。5人ともが、それぞれ精神の重心を傾かせ、もがきながら、それでも日々を駆け抜けていく、とてもストレートな青春ストーリーです。
 この物語は、第7回高校生が選ぶ天竜文学賞、第12回酒飲み書店員大賞というなんとも趣の異なる賞をダブル受賞させていただきました。
 現役高校生からだけでなく、酒飲みの大人達にまで支持をいただけた。この振れ幅は、かつて高校生だった日々が、多くの人にとっても、未だ身近な季節だという証左ではないかと思うのです。
 どうか、たくさんの方に楽しんでいただけますように。



成田名璃子(なりた・なりこ)
1975年青森県生まれ。東京外国語大学卒業。2011年『月だけが、私のしていることを見下ろしていた。』で第18回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞し、デビュー。16年本作が第12回酒飲み書店員大賞を受賞。著書にベストセラーとなった「東京すみっこごはん」シリーズ、『咲見庵三姉妹の失恋』『坊さんのくるぶし 鎌倉三光寺の諸行無常な日常』『今日は心のおそうじ日和 素直じゃない小説家と自信がない私』『月はまた昇る』『今日は心のおそうじ日和2 心を見せない小説家と自分がわからない私』『ひとつ宇宙(そら)の下』などがある。

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