〈7月11日〉 高田大介

文字数 2,812文字

(かぎ)


 わたしの(あるじ)()(しゃ)(ひと)(たい)してかけることばは(しゅ)()による。だから(がい)(しゅつ)(ちゅう)()(じん)(こえ)をかける(とき)にはわたしが(あいだ)にたって(つう)(やく)(つと)めなければならない。(つう)(やく)(とどこお)ると(あるじ)()(たん)()()(げん)になるから、()()みの(みせ)ならともかく今日(きょう)みたいにがらくた(いち)()やかして(ある)いていると()(やす)まらない。
「お(じょう)さん、どうです、(とう)(ほう)(ろう)(けつ)(さら)()、お()にとって()ててみちゃ」
——くたばれ。なんだその()()(ひょう)()みたいな(ふく)
「すみません、あまりお()()さないようですので……」
「ご(どう)(じょう)(なん)(ぽう)から()()せましたる(すず)(こう)()(ちん)(とう)にいかがでしょう」
——()()りでも()いてろ。なにがご(どう)(じょう)だ。
(あるじ)(かお)りにうるさいので、あしからず……」
 そんな(あるじ)(あし)()めたのは()()(どお)りの()(てん)(ひと)がとりあえず()()しに()()んで(わす)れているような(ちゅう)()(ひん)(たく)(じょう)緞通(だんつう)()らばっている。()びた(くぎ)()()()(くち)だけの(きつ)(えん)()(ろく)(しょう)のわいた(ぶん)(ちん)(かず)(そろ)わぬ(しょく)()()()……それから(にぶ)くくすんだ一(つづ)りの(かぎ)(たば)
——()いの(じょう)(まえ)()いのに(かぎ)だけ()ってる。こんな()(よう)(ぶつ)もないもんだね。
()(かい)のどこかにこの(かぎ)(さが)(まわ)っている(ひと)もあるかもしれませんね」
 ()(てん)(たく)()こうから()(きん)(ろう)()(ふし)くれ()った()()ばし、(めずら)しくも()()まった(あるじ)()(まえ)(かぎ)(たば)()りはじめた。(しん)(ちゅう)だろうか、いくつもの(かぎ)がしゃらしゃらと(おと)()て、やがて老婆(ろうば)鍵束(かぎたば)から一つの(かぎ)()()けると、(あるじ)()()して()せた。
 (あるじ)(かた)(ほう)(まゆ)()をぴくりと()げると、ついで(くち)(かた)(はし)だけを()げて、(うなず)いた。
——(いただ)こう。お(まえ)()(づか)いで()っておいて。()()(けっ)(こう)
「わたしの。はい、わたしの()(づか)いが()()()るのは(かま)わないんですね」
 すでに(さき)にたって(ある)(あるじ)に、()(はら)いを()ませて()いついた。こんなものに(いく)らの()()があるのか、(あるじ)(じょう)(ない)から()りてきたのが()えみえなので、ぜったい(ぼう)()()られた。(あるじ)(かぎ)()(わた)して()く。
(じょう)がないのに(かぎ)だけ()うなんて(すい)(きょう)ですね、お(めずら)しい」
 (あるじ)(かぎ)(さき)()()きを(ほそ)(ゆび)(しめ)して()せた。
——(かぎ)(さき)M(エム)になってる。(わたし)()(かしら)()()だ。
「お(ばあ)さん、ご(ぞん)()だったんですかね」
——(しゅ)()(つう)(やく)なんか()れているから()(もと)がばれたのかもね。
 (あるじ)(まじな)いや(うらな)いを(いと)(たち)だから(くち)には()しかねたけれども、わたしにはあの(ろう)()がこれと(えら)んで()(わた)してきた(かぎ)には(なに)(ふか)()()があるように(おも)えてならない。この(かぎ)がかちりと()まる(じょう)がどこかで()つかるのではないかという予感(よかん)がしてならない。この(かぎ)はいつかどこかで……()ざされた(なに)かを(ひら)くことになるのだ。
 そして(ほか)ならぬ(あるじ)(たく)されたからには、この(かぎ)()くものと()えばわたしには一つしか(おも)()かばない。それは(じょう)のおりた一(さつ)(ほん)だ。
 わたしたちは何時(いつ)何処(どこ)で、その一(さつ)(ほん)()()うのだろうか。


高田大介(たかだ・だいすけ)
2013(ねん)(だい)45(かい)メフィスト(しょう)(じゅ)(しょう)(さく)()(しょ)(かん)()(じょ)』でデビュー。ほかの(ちょ)(さく)に『()(しょ)(かん)()(じょ) (からす)(つて)(こと)』『まほり』がある。

近刊(きんかん)

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