BOOK FIRST

文字数 1,051文字

 いくつかの意味で、『少女を殺す100の方法』はぼくの初めての本だ。
第一に、本書はぼくが初めて刊行した短編集である。たくさん人が殺される話が好きだったのでそんな話ばかり書いて一冊にまとめた。一編あたり二十人、全五編で百人が殺されるという塩梅である。
 第二に、そんな本書の中でも「少女ミキサー」はぼくが初めて依頼を受けて書いた短編である。デビュー二作目の『東京結合人間』の原稿を直していた頃、合間を縫って書いた。人間をくっつけながら刻んでいたのだから我ながら器用である。
 第三に、本書に収録されている「『少女』殺人事件」はぼくがデビュー前に書いた習作のアイディアを元にしている。さる新人賞にその習作を投じたのだが箸にも棒にも掛からなかった。新人賞の目的はまともに小説を書ける新人を掘り当てることだからこんなもので賞がもらえないのは当然である。デビュー前の作品はろくなものがないがこのアイディアは珍しく気に入っていたので、箸休めのような位置づけで新たに書き下ろした。ぼくの小説の中ではこのアイディアが一番古いことになるから、これもまた初めての作品である。
 第四に、本書はぼくが初めて角川書店以外の版元から刊行した作品である。新人作家というのは大半が賞をもらって生まれてくるのだが、ぼくは何も持たずにぬるりと世に出た。憧れの世界に足を踏み入れられたのは嬉しかったが、うっかり腹から出てしまった未熟児のような自分が小説を書き続けられるのか不安でならなかった。光文社からこの本を出してもらえたことは大きな自信になった。
 今回の文庫化にあたり、全編を改稿した上、新たに三つの掌編を収録した。百二十人以上が死んでしまい書名が虚偽表示になっているが多い分には問題ないはずである。見れば分かる通りろくな本ではないし、読んだところで得るものはないが、何らかの意味で誰かの初めての本になれば嬉しい。



白井 智之(しらい ともゆき)
1990年千葉県印西市生まれ。東北大学法学部卒業。『人間の顔は食べづらい』が第34回横溝正史ミステリ大賞の最終候補作となり、同作でデビュー。2015年刊行の『東京結合人間』が第69回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補作に、2016年刊行の『おやすみ人面瘡』が第17回本格ミステリ大賞(小説部門)候補作となる。



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