第4回
文字数 2,335文字
新型コロナウイルスの影響で、
今「家から出ない」ことが何より尊ばれている。
つまり、時代が突然「ひきこもり」に追いついたとも言えるのでは?
ソーシャルディスタンシングを常に実践、
かつ#Stay Homeでこそ輝く彼らにこそ学ぶべき。
脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする
困難な時代のサバイブ術!
「ひきこもりが先か、コミュ症が先か」
これは昔から哲学者の間で論じられ続けてきたジレンマである。
ちなみに、ひきこもりにはわりと議論好きが多く、政治、社会、ピクシブのカップリング表記の仕方まで連日熱い討論が繰り返されている。
ただし、ひきこもり朝まで生討論には必ずと言っていいほど「※ただしネット上に限る」という注釈がついている。
これは、ひきこもりをリアル会議室に集めると、なぜか挙手者がゼロになるという怪現象が起こるからである。
おそらく会議室に潜んだ霊の仕業なので、ひきこもりが悪いわけではない。
このようにネット上でだけ、饒舌に持論を展開する者のことを「ネット弁慶」そしてその議論の様子は時に「学級会」などと揶揄されてきた。
しかし現在、世の中ではウイルスの影響で会議もリモート化している。つまりひきこもりが何十年もやってきた「ネット議論」が世界のスタンダードになっている、ということだ。
このように、ひきこもりは常に先駆者なのである。
それは「ひきこもり」ではなく、ただの「コミュ症」では、と思うかもしれないが最初言った通りひきこもりとコミュ症には深い関わりがある。
コミュニケーション能力が低い者は、外(社会)にいると問題が起きやすく、ストレスも感じやすいため、トラブルやストレスを避ける方法として出来るだけ外部と接触しないようになる。これがコミュ症が先のひきこもりパターンだ。
一方、家に一人でひきこもることを好む人間は、人と接する機会が少なく、自ずとコミュニケーション能力も低下していく場合が多い。これがひきこもりからコミュ症パターンである。
いつもはひきこもりだが外に出れば高いコミュニケーション能力を発揮する、というひきこもりが考えた「なろう小説」の主人公みたいな、ニュータイプひきこもりも存在しないことはないが、ひきこもりはコミュニケーション能力が低い傾向がある、というのは否めないところである。
コミュニケーション能力が低いひきこもりが、たまに「手袋を買う」など不要不急以外の用に迫られ外界に降りると、何せコミュ症なので「やらかしてしまう」率が高い。
そうなると「やはり外は怖いとこズラ……」となってしまい、余計ひきこもるというループになってしまう。
しかし、ひきこもりがコミュ力が低い、と言ってもそれはあくまで、対面での会話能力が低いという意味である。
冒頭言った通り、ネット上では普通に会話できるどころか、議論で相手を打ち負かすことだって出来たりするのだ。
しかし、何故か今までネット上でのコミュ力や会話能力は低く見られがちで「ネットでだけ元気でも仕方ない」みたいな言われ方をしてきた。
しかし「対面での会話」以外、正しいコミュニケーションではないというのは、今話題になっている「紙にハンコをついた書類以外はヤギに食わす」というアナログ信仰と、大して変わらないのではないだろうか。
昔であれば、ネットを使ったコミュニケーションというのは、パソコンオタクが趣味でやっていること、というイメージだったが、今ではメールやLINEが普通にビジネスで使われる世の中である。
むしろ、会話が苦手な奴に会話のみでのコミュニケーションをさせようとすると「ホウ・レン・ソウ」すらままならず、周りに迷惑をかけることになってしまう。
それよりは「はす向かいの席にいる上司への報告もメールでして良い」という風にした方が、逆にトラブルを防げたりするのだ。
コミュ症を社会問題視されている方の「ひきこもり」にしないためには、「コミュ症の会話能力を伸ばす」などという「魚に肺呼吸される」ぐらいのミッションインポシブルをさせるより、「得意なコミュニケーションツールを選ばせる」方がよほど手っ取り早い。
この「コミュニケーションツールの自由化」こそが、社会に不適合気味な者を社会に留まらせるカギだと考えている。
私は漫画家やライターをやりはじめて10年になるのだが、今までやってきたどの職業よりも長続きしている。
失踪や発狂をせずに続けられた理由は、第一は読者の応援、そして担当への殺意だが、2番目は、やりとりをほぼ「メール」ですることが許されているからだと思う。
許されているというか、電話に対し「無視」というコミュニケーション方法を取ったため自ずとそうなっただけだが、それでも仕事はできるのだ。
もし、対面や電話での対応を強要されていたら、今頃失踪、発狂、何より殺人事件が起きている。
とにかく、相手を仕留めさえできれば武器は問わないように、意志の疎通さえできれば方法は問わない、と考えることが、コミュ力の低いひきこもりにとっては重要である。
また周囲の者も、頑なにメールなどでの連絡にこだわる人間がいたら、怪訝に思うかもしれないが、無理に対話を望んではいけない。
それが一番、意志疎通が円滑で、殺人事件が起こらないのである。
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中。