第10回

文字数 2,391文字

感染拡大がいったん収まり、一部外出や経済活動が解禁されたものの「withコロナ」時代を生きることになった人類。


仕事も飲み会も「家でやろう」に変わり、パリピやリア充からまさかのひきこもりに主役の座が移ったように見える。


しかし、「明治維新以来の日本の夜明け」とのぬか喜びは禁物、そこには様々な罠も潜んでいた!?


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする困難な時代のサバイブ術!

今回は本物の「ひきこもり」について語ろう。


陽キャが「オレ結構オタクだから、ワンピースとか読んでるし」と自称するように「ひきこもり」を自称する者も結構いる。


ちなみに、ひと昔前までにわかオタクといえばワンピースであったが、ワンピースも今では96巻も出ているので、全部読んでいるとしたらかなり気合の入った漫画読みである。


このひきこもり処世術でいう「ひきこもり」というのは、主にこちらの丘ひきこもりである。


丘ひきこもりとは、仕事など必要に迫られれば外に出て社会とも関わるが、それ以外では外にも出ないし人とも関わらない、というタイプであり「一人が好きなインドア派」と言ってしまえばそれまでである。


このようなファッションひきこもりのフェイク野郎のことを、ホンモノのひきこもりは苦々しく思っているかどうかはわからないが、全く別物であることは確かである。


現在「8050問題」という言葉が生まれている。


これは80歳まで50本自分の歯を維持しようという運動ではない。それではむしろ二倍に増えてしまっている。


50代のひきこもりの子どもを80代の親が支えている家庭のことを指す。


1980年代「ひきこもり」は若年層の問題がったが、現在では中高年のひきこもりの数が増えている。

これは突然中高年がひきこもりだした、というわけではなく1980年代にひきこもりだった若者が、そのままひきこもり続けて30年経ったからである。


つまり、30年自宅に潜伏し、ネトゲやヤフコメでたった一人戦い続けた、令和の横井庄一が全国に存在するということである。


8050問題が最終的にどうなるかというと、子を支え続けた親が死んだ時点で子も餓死し親子そろって遺体で発見される。将来を悲観した親が子どもを殺す。または逆に子が親を殺す。果てはヤケクソになった子どもが全く無関係の人間を巻き込んだ事件を起こす。という例もある。

ともかく、本物のひきこもりというのは最悪死人が出る問題なのだ。休みの日外に出ないぐらいでひきこもりを名乗るのは正直、おこがましい。


それ以前に「なぜ子供が30年もひきこもるのを許したのか」と思う人も多いだろう。


これはお国柄が影響していると言われている。


先日ニュースを見ていたら、オーストラリアはコロナウィルスの第二波を防ぐため、電車内で座って良い場所を指定するなど、ソーシャルディスタンスを徹底しているという。

しかし、ここまでやっておいて、マスクは誰もつけていないのだ。


日本人からすれば「最新の防弾チョッキを着ているが、下半身は丸出し」のような違和感を感じるが、オーストラリアにはそもそもマスクという文化がなく、国もマスクはしなくて良いと言い切っているのだ。


このように、コロナ対策ひとつとっても、国によって大きく違うのだ。

それと同じようにひきこもり対策も国によって違う、と言いたいが、そもそも「ひきこもり」自体日本独自の問題であり、海外にはあまりないのだ。


よって「HIKIKOMORI」は「HENTAI」に続いて、日本を代表する全世界共通語になりつつあるという。


何故、海外にひきこもりがあまり生まれないかというと、基本的に成人したら子どもが家を出るのが当たり前だからという。

日本の場合、就職と共に家を出るのはマストではなく、むしろ親の方が一人暮らしは心配だからと、子どもが家にいることを歓迎しているケースすらある。


欧米ではそんなのはとんでもねえ、という話であり、親が実家から出て行かない子どもを訴えた例もあるらしい。


つまり、子どもは成人した時点で家を出るのが当たり前で、何かあっても親元に戻るという発想がなく、親も成人した子供が実家に存在するなんて訴訟ものであると考えているため、ひきこもりが発生しづらいのだ。


また、日本の家庭は家庭内での問題を外部に漏らしたがらない、という特徴がある。


本物のひきこもりの親は「土日全く外出しなかった、完全なひきこもりだわ」などと吹かしているファッションひきこもりを前にしても、山岡士郎の顔で「明日、ここに来てください、本物のひきこもりを見せてあげますよ」などと言って、自慢の50代のひきこもり息子を披露してくれる、などということは絶対にないのだ。


むしろ家宝かよというぐらい隠し、公にならぬよう、他人の迷惑にならぬよう自分たちだけで世話し「ひきこもり歴30年」というベテランを育てあげてしまうのである。


しかし、世間体を気にした結果、事件が起きて、むしろ家庭の事情が全国に実名報道されてしまったりするのである。


ひきこもりというのは、本物だろうが丘だろうが、基本的に「外」に弱いのだ。

つまり身内には強いが、外部の人間には「ウエッへえ」となるので、もし身内のひきこもりで悩んでいる人がいたら、隠そうとはせず、積極的に外部の人間を入れた方が良い。

★次回は7月10日(金)更新です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

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