下剋上ど真ん中! 殺しまくって主家を乗っ取る、ワル特化型三武将。

文字数 2,206文字

異能の戦国武将

野蛮、強欲、残虐……。末法末世の戦国を、己の力の限りを尽くして生きた武将たち。その野太い雄姿を史実・通説織り交ぜて活写する、戦国徒然連載です。
母子でお色気作戦。舅も娘婿も皆殺し。奸悪無限の梟雄

宇喜多直家(1529~1581)

宇喜多直家は備前(岡山県南東部)の人。直家の祖父が裏切りにあい、殺されると、直家は幼くして流浪の身となった。


その後、祖父の主君だった天神山城主・浦上宗景に目通りし、家の再興を願う機会を得た直家母子だったが、その際、直家は、母に化粧を濃くし、派手な衣装を着るように勧めたという。つまり、好色な宗景が、美貌の母に手を付けることを狙ったのだ。


直家の狙いは的中、母は宗景の妾となり、直家は宗景の近侍となった。だが、“色仕掛け”はこれで終わらなかった。直家は母に似た美少年で、当時14。そして、宗景は男色も好んだのである――。


当時、城下には「宇喜多母子は備前の畳、表(前)も裏(後)も役に立つ」という俗謡が流行ったという。


さらに、そんな美少年でありながら、合戦では極めて勇猛で、その荒武者振りから「白面の野猪」とあだ名された。


直家が一国の主となるまでの非道は凄まじい。浦上家中の実力者で舅の中山備前守を騙し討ちにし、その領地を手に入れるが、中山の娘である妻は、その後、自殺した。その上、妹や長女、二女、三女の婿を次々に毒殺、或いは騙し討ちにして勢力を拡張。そして、ついに主君・宗景を追い出し、備前・美作の国主となる。


その後、息子の秀家は豊臣政権下で中納言にまでなったが、関ヶ原では敗軍の将に。宇喜多家は改易(※1)となった。

戦国メモ

弟の忠家でさえ直家に会う際は鎖帷子を着けていたという。「梟雄」って、寂しいものですね。 
「国盗り事業」は「親子マムシ」の共同作業?

斎藤道三(?~1556)

最近まで、斎藤道三は僧侶出身、その後、一介の油売りから成り上がり、旧主から美濃(岐阜県南部)を乗っ取った「下剋上大名」の代名詞とされてきた。しかし、新史料の発見・研究により、道三の「国盗り」は、道三の父と道三の、親子二代によってなされたものと考えられるようになっている。


道三の父・新左衛門尉は元々京都の僧侶だったが、その後、美濃の守護職(※2)・土岐家の重臣だった長井氏に仕えた。そして、次第に頭角を現した新左衛門尉は、土岐氏の家督争いに敗れた二男・土岐頼芸に守護職を継がせるため、兄・政頼を攻め、これを越前に追放。頼芸を守護職につけた。


さらに、土岐家の実権を握る長井氏が邪魔になり、自らを取り立ててくれた大恩があるにもかかわらず、長井長弘を殺害した。


通説では、これらもすべて道三の所業とされてきたものだが、道三が父の家督を引き継いだのはこれ以降のことのようだ。


そして、ついに道三は主君・頼芸を尾張に追放、土岐氏を滅ぼして、美濃の国主となった。


だが、そんな「美濃の蝮」の最期は哀れ。家督を譲った嫡男の義龍は実は頼芸の子だったと言われる。義龍に跡を継がせることで、「土岐氏を滅ぼした」という批判を避けるためだったが、その後、二男の孫四郎を後継者にしようとしたため、義龍に叛かれたのだ。


結局、道三は敗死。その首を争う者のために、道三の首は、その鼻まで削がれていたという。

戦国メモ

伝わる悪行も、多くは道三の父によるものか。親を恨んでほしい。

仏罰覿面⁉ 信長も認めた天下の大悪人。

松永久秀1510~1577)

久秀は当時、足利幕府を傀儡とし、近畿に覇を唱えていた三好長慶に仕え、次第に頭角を現し、大和(奈良県)を領国とした。この頃、長慶の弟の十河一存や嫡男の義興が相次いで死亡。これらの死は久秀の暗殺によるものとする説もあるが、長慶はこれで政治への意欲を失い、久秀は勢力を伸ばす。



長慶の死後は、三好三人衆(三好政康・三好長逸・岩成友通)とともに、三好義継を傀儡とし、室町幕府13代将軍・足利義輝の暗殺にもかかわったといわれる。その後、三人衆や筒井順慶と争うようになり、彼らが陣取った東大寺を攻撃、大仏殿を焼失させる



その後、織田信長への臣従と謀反を繰り返すが、最後は信長に攻められ、信貴山城に籠城。その際、信長は、久秀が持つ名器・古天明平蜘蛛茶釜(※3)の献上を条件に助命すると伝えたが、久秀はこれを拒否。城に火をつけ、自害した。一説には、平蜘蛛に火薬を仕掛けて爆死したとも言われる。


奇しくも、久秀が大仏を焼いてからちょうど十年後の、10月10日のことだったという。

戦国メモ

信長は久秀を「悪人」と嘲ったそうだが、信長だけには言われたくなかったと思います。

※1改易(かいえき)……江戸時代に大名などが屋敷や領地などの資産を没収され地位を剥奪される処罰。

※2守護職(しゅごしき)……鎌倉幕府・室町幕府が置いた武家の職制で、国単位で設置された軍事指揮官・行政官である。

※3古天明平蜘蛛茶釜(こてんみょうひらぐもちゃがま)……一般に、蜘蛛がはいつくばっているような、平らな茶釜のことを平蜘蛛茶釜という。

関連書籍

『おのれ筑前、我敗れたり』南条範夫/著(文春文庫)
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『宇喜多の捨て嫁』木下昌輝/著(文春文庫)

関連書籍

『梟の系譜 宇喜多四代』上田秀人/著(講談社文庫)

関連書籍

『国盗り物語』司馬遼太郎/著(新潮文庫)

関連書籍

『じんかん』今村翔吾/著(講談社)
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『弾正星』花村萬月/著(小学館文庫)

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