第31回
文字数 2,911文字
「北風と共に勢いが増しているコロナの感染状況は、
“第三波”との報道もあり、またまたひきこもり圧が高まりそうな日本列島。
街にイルミネーションが灯ろうと、気が早いクリスマスソングが流れようと、
トレンドは間違いなく“ひきこもり”!
脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、
困難な時代のサバイブ術!」
ちょっと「ひきこもり」の絵を描いてみてほしい。
多くの人が「何故そんなものを描かなければいけないのか、俺はそれより推しの左斜め45度を向いたバストアップイラストに『Are You Ready?』みたいなセリフをつけたい」と思うだろう。
私もそう思う。がちょっと我慢して描いてみてほしい。
ちなみに、美形がたくさん出てくる二次元コンテンツでも「ひきこもり」という設定のキャラは出てくるが、ひきこもりの割には全然太っていない。もしくはぽっちゃりという名の巨乳、少なくとも顔は全く太ってはおらず「だらしない部屋着、ぼさぼさの髪、無精ひげ」の3点のみで「ひきこもり」を表現している場合が多い。
もしくは登場時はクソデブでも、物語が進むにつれ、呪いが解けたように美形に戻る。
ただ、ひきこもりを描く時は単純に太らせたり髪をボサボサにしてもいいが、それよりも肌を汚くしてほしい。
ひきこもってもデブらない奴もいるが、運動不足と食生活や睡眠の乱れで肌はもれなく汚くなっている場合が多い。
特にアゴ周りを壊滅させておけば「おっ、こいつひきこもりのこと良く分かっているな」とクライアントに一目を置かれるだろう。
あと、髪の毛もただ長髪にするのではなく「キューティクル全剥げ」を表現するとさらに好印象だ。どんなに若くても白髪を混ぜておくのも忘れないで欲しい。
以上のアドバイスを元に、俺の考える最強のひきこもりを描いて欲しいのだが、ディティールに差はあれど、多くの人が「男性」のひきこもりを描いたのではないだろうか?
先日担当よりNHKが「ひきこもりキャンペーン」をやると聞いたので「ついに拙者の時代がきましたな」と見に行ったのだが、当然のように、ひきこもりとしてどう生きて行くかではなく「ひきこもり問題」をどう解決するかという特集であった。
しかしひきこもりを「問題」と言いながら「ひきこもり」ではなく「こもりびと」と、ちょっとイケてる風にしようとするなどの迷走が見られる。
私も、ひきこもりとして生きる道を模索しているが、もちろん外に出て社会生活が送れるのだったらそれに越したことはないと思っているし、そうなれるならなりたい。
しかし、それがどうしても無理だというタイプは、無理に外に出て心身を破壊したり、事件を起こすぐらいなら、極力世間や他人と関わらずに生きて行く道を見つけた方がマシなのではないか、と思っているだけである。
よって、ひきこもって生活しているが外に出る望みは捨てていない、もしくはひきこもりにはなりたくないという人は、「こもりびと()」のページや番組をチェックしてみてはどうだろう。
そして、担当によると、その特集の中では「女性のひきこもり」についてももクローズアップしているので、私にも「女性のひきこもり」について語ってほしい、とのことである。
私が一応女、昔のクソオタク女風に言うと「遺伝子上女(暗黒微笑)」なのでそう思うだけかもしれないが、現代においては、どんな立場にいても女の方が厳しい目で見られているような気がする。
独身で働いていれば「結婚しないのか」と言われ、結婚すれば「子どもは産まないのか」と言われ、「しないし、産まない」と答えれば、少子高齢化の元凶のように言われる。
何故手取り13万の事務員などに、そんな人類を滅ぼすような力があると思うのだろうか。
結婚して主婦になっても「子どももいないのに主婦なんて甘え」と言われるし、子どもが生まれても「ワーママもたくさんいるのに何故お前はそれができないのか」と言われる。
昨今の「多様化社会」というのは、女性が色んな選択肢を「選べる」のではなく、ただ「やることが多い」という金田一少年の犯人状態になっただけのような気もする。
だが、1つだけ女が圧倒的に甘く見てもらえる立場がある。
それが「無職」、そして「ひきこもり」だ。
「ひきこもり」のイメージイラストの多くが「男性」なのは、男性のひきこもりが多いからというわけではなく、男性にした方が「深刻」な感じがするからだと思われる。
男が成人して働かず実家にひきこもっているといったら、周囲は「恥ずかしくないのか、一刻も早く外に出て働くべき」と責めるだろうし、親もそんな息子を恥と思い、早く何とかしなければと思うだろう。
女のひきこもりも同じことを言われるが、それでも女には結婚していれば「専業主婦」、未婚なら「家事手伝い」という、無職やひきこもりを隠すオブラートが存在するのである。
未婚の無職ひきこもりでも女であれば、周囲や親は「それでも女なら結婚すればワンチャン」と考え、男よりも深刻ではないと捉えてしまうのだ。
ツイッターを開けば3秒で、結婚しても仕事や子育てで生活に苦労している女に山ほど出会えるのに、何故か日本では「女は結婚すれば安泰論」が未だになくならない。
仮に結婚が打開策になるとしても、現在専業主婦は既婚女性の三分の一程度になっている。
つまり男の半数以上が、結婚相手に働いてくれることを求めているため、家事が出来たとしても「無職で10年ひきこもっていた」という女と結婚しようという男は、なかなか見つけられないのである。
ひきこもりになるような自己肯定感の低い女なら、自分の言いなりにできるだろうと選ぶ男ならまだ良い方で、最悪、人身や臓器売買のブロ―カーの恐れがある。
つまりかなりノーチャンに近いのだが、周囲が「女だし結婚でワンチャン」と思えば本人もそう思ってしまうため、女のひきこもりは周りも本人も「早く何とかしなければ」とさえ思わず、見過ごされ、むしろ男より長期化するリスクがある。
つまり、ひきこもり問題は女なら大丈夫、というわけではなく、少なくとも男と同じぐらいには深刻である。
よって、ひきこもりの絵を描いてくれと言われたイラストレーターは、ぜひ男だけでなく肌が汚い女のひきこもりも描いて、男女関係ない問題だということを啓蒙してほしい。
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。