またね家族/松居大悟
文字数 1,421文字
丁寧に描きつづけた男がいた。
何百枚、何千枚とPOPに”想い”を込め続けるうちに、
いつしか人々は彼を「POP王」と呼ぶようになった……。
……と、いうことで、”POP王”として知られる
敏腕書店員・アルパカ氏が、
お手製POPとともにイチオシ書籍をご紹介するコーナーです!
(※POPとは、書店でよく見られる小さな宣伝の掌サイズのチラシ)
……それが『またね家族』を読み終えた後の偽らざる感想だ。
光と影が巧妙にストーリーを照らし、静と動が絶妙に入り混じってアクセントをを与える。全体を俯瞰した次の瞬間には繊細な部分にズームイン。あふれる色彩に映像美。切れ味鋭い名ゼリフや記憶を閉じこめた名シーンの連続もまた印象的。
主人公の「竹田武志」は著者と同様に劇団を主宰しているから、まさに自らの人生を物語の中で重ねたポートレート小説であるといえるだろう。
そもそも人は人生という名の劇場でそれぞれの役割を演じて生きている。
本音を隠して建前を強調するからそこに確執が生まれる。それこそが悲劇喜劇の根源なのである。
登場人物たちもまた役割を全うする。
大黒柱であるはずの父は余命三ヶ月。儚い命から強い生命力を際立たせる。父の影にいる穏やかな母は、脇役に徹して安らぎを与え、我が儘で相性の悪い兄もままならない人生の足かせを体現。自由奔放で目まぐるしく表情を変える彼女は、時々刻々と流れる変化の象徴ともいえる。東京と福岡という遠距離もまた、もどかしい人生をそのままに表しているといえよう。
至る所に高い壁があって落とし穴もある。愛して憎しんで傷つけて癒し合ってこその家族なのだ。
そして人はこの世に生まれ落ちてから死ぬまでずっと、目には見えない重荷を背負って生きている。その荷物を軽くするか重くするかは赤の他人ではなく血の繋がった家族との距離なのかもしれない。
まったく予測のできない愛別離苦と生老病死を抱えながら、抗うことのできない運命と同じように家族もまたこの世界を揺蕩っているのだ。
「家族」という二文字は決して単純な言葉では言い表すことができない。
一筋縄ではいかない、不器用すぎる人間たちの営みを完全凝縮させたのが『またね家族』なのだ。これから先、誰かに「家族とは?」と聞かれたら、迷わずにこの作品を差し出せばいいだろう。
「煌めきよりも生臭い」人生のすべてがここにある。
松居大悟の小説家としての見事な初舞台に、心の底から拍手喝采を送りたい。