第6回/〈大人〉という存在。〈飛ぶ〉ということ
文字数 1,361文字

そろそろ持ってきた本も最後に近づいてきましたね。『ご冗談でしょう、ファインマンさん―ノーベル賞物理学者の自伝』(ファインマン・R・P、大貫昌子 訳/岩波書店)。これは、単純に、好きですね……。
ーー本日ご持参された本のなかで数少ないエッセイですね。
ファインマンは僕のなかで、快活で、気持ちのいい大人の象徴です。
すごい学者なのに、ジャズにかまけていたり、でも核開発のことを考えたり、女の子をナンパする話をしたり(笑)。初読のとき「こんなに人間味のある大人っているんだ!」と驚きました。
描写される20世紀アメリカの光景も楽しくて、僕が昔から観ていた映画の視覚情報が、よりヴィヴィッドに補強されます。
僕は創作において「大人が嫌な存在として描かれる」ことに拒否感があるんです。当然作品に必要なら徹頭徹尾「嫌な人間」を描いて演出しますよ。でも、「嫌な人間」を出しただけで人間社会を描いたと満足しているスタイルとは距離を取りたい。
『レヴュースタァライト』でも大人は最低限の関わりで、悪として描かないようにしました。「理想の大人がいたっていいじゃないか」というある種の祈りです。
ーーそんな思いが……読んだものがすべて作品に繋がっていますね。
摂取してきたものですから。そして、最後にこれを。
僕の読書歴のなかでも一番重要かもしれません。『かもめのジョナサン』(リチャード・バック、五木寛之 訳/新潮文庫)です。
この作品が実践しているのは「普遍的な行為の分解と再構築」ではないかと思うんです。
かもめの〈飛ぶ〉という行為を極限まで事細かに描写しています。翼の角度や風のことに至るまで。〈飛ぶ〉ことを知らない者に〈飛ぶ〉ことを言葉で理解させてくれる。
〈飛ぶ〉という行為の分解と再構築が、結果として〈生きる〉ということへの視座への変化にまで拡張されていきます。かもめが飛ぶ話なのに、人が生きて死に再生する教えの物語でもある。
言語化の鬼なんです、この作品は!
ーーなるほど。古川さんのディティールへのこだわりと通じますね。
はい。だから僕は『かもめのジョナサン』は働き出す前の若者に読んでほしい作品だと思っています。技能を分解して再構築する……そういった「錬磨」は、どんな仕事をするうえでも重要なことです。「対象物の見え方」が変わると「この世との距離が変わる」、それは「アタシ再生産」。
ーーそれが「アタシ再生産」……! 『かもめのジョナサン』も含め、今日ご紹介していただいた本は、どれも『レヴュースタァライト』のファンにもぜひ読んでもらいたいですね……! 貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました!
ありがとうございました!
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