富樫倫太郎『信長の二十四時間』

文字数 1,109文字




【映画のような小説を】

小説を書くとき、常に心懸けているのは、わかりやすく書く、ということだ。小説の内容が読んだ人の頭にすんなり溶け込み、その内容が頭の中で映像として描き出されることが理想である。

 そのためには、当然、作者自身、きちんと映像をイメージしていなければならない。

 わたしは海外ドラマや映画が好きで、面白い作品に出会うと、それが次の小説のモチーフになることも多い。『24』というドラマとの出会いは衝撃的で、長いシリーズをすべて見終わった後も、しばらく興奮が冷めなかった。こんなスピード感のある面白い小説を書いてみたい、歴史小説でやれないだろうか……そんな思いつきから『信長の二十四時間』は構想された。今までと違ったやり方で映画のような小説を書いてみたい、という意気込みで取り組んだ。

 映画は、脚本ができればすぐに撮影できるわけではない。まず監督が絵コンテを作る。監督の頭の中にある映像を場面毎に紙芝居のように一枚ずつ描いていき、それに基づいて撮影を始めるのである。

 同じ作業をやってみた。

 普段から、割と細かくプロットを作る方だが、この小説に関しては今まで以上に細かくプロットを作り、場面を細かく区切り、その場面の絵コンテを作成した。映画のワンシーンを撮影するように、絵コンテに基づいて、ひとつひとつの場面を文章で表現する。小説を読み終わったときには、一本の映画を観たのと同じ気持ちになれるはずだ、きっと映画のような小説になる、と信じて執筆した。

 我ながら面白い試みだったと自負しているし、売り上げも悪くなかったので、担当者からは「二十四時間シリーズにしませんか」と提案され、『秀吉の二十四時間』『家康の二十四時間』『龍馬の二十四時間』などとタイトルまで提示された。

 しかし、これ以降、同じやり方で小説を書いたことはない。すべての場面について絵コンテを作るという作業は気の遠くなるほど大変なのだ。もう一度やってみろ、と言われると尻込みしてしまう。映画監督になるには、恐ろしく地道な作業を延々と続ける根気が必要であり、自分には映画監督になる素質はない、と思い知らされた。

IN☆POCKET「もうひとつのあとがき」より

【富樫倫太郎】
1961年、北海道生まれ。「SRO 警視庁広域捜査専任特別調査室」シリーズ、「生活安全課0係」シリーズ、「軍配者」シリーズなど幅広いジャンルで活躍

『信長の二十四時間』 講談社文庫
ISBN:978‒4‒06‒293784‒9


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