QuizKnock河村・拓哉&須貝駿貴『爆弾』インタビュー/tree選り抜き版
文字数 4,312文字

『爆弾』を読んで
~クイズとミステリーの交差点~
東大発の知識集団QuizKnockと呉勝浩の新作小説『爆弾』が奇跡のコラボ!
クイズとミステリーに共通する謎解きの楽しみについて、
QuizKnockの河村・拓哉さん(写真右)と須貝駿貴さん(写真左)に、
読書体験を交えつつ聞かせていただきました。
──先日、宇佐見りんさん『推し、燃ゆ』の読書会の配信をされていましたよね。お二人は普段から本を読まれているのですか?
河村 実はそんなに量は読めていないんです。だけど、色々な本を読みたいな、と思い、まずは読書を楽しめることを意識して、読書会をやっています。
須貝 バトルもののライトノベルをよく読みます。「魔法科高校の劣等生」シリーズが大好きですね。『爆弾』のようなエンタメ小説は年に数冊読む程度です。
──QuizKnockのメンバーの間で「この本面白かったよ」と話をすることはありますか?
須貝 僕と河村さんの間ではないね!
河村 ないですね~。でも、動画の企画会議のときに話すことはありますよ。QuizKnock以外の面白い動画を参考にすることもありますが、それだとただの動画の再生産になってしまうので、動画以外で面白いコンテンツを持ち寄るんです。そのときに小説の話が出ることはありますね。
須貝 確かにホームズの『踊る人形』の暗号解読の企画はそうだよね。

──幅広く読まれているお二人にとって、呉勝浩さんの『爆弾』はいかがでしたか?
須貝 面白かったです!
河村 僕もすごく好きでした。
須貝 小学生の頃に読んだ課題図書よりはるかに面白かった(笑)。課題図書は人の気持ちを描くことに重きを置く本なのでしょうが、登場人物の気持ちを全く理解できなかった。だけど、『爆弾』の登場人物たちの気持ちは全員どこか共感できる。爆弾魔のタゴサクですら、僕にも似たところはあるな、と思わされてしまう。破壊的だし、すべての人を見下している。自分にも、そういう一面があることに気がつかされました。
──タゴサクと対峙する警察サイドには、どういう印象がありますか?
須貝 中盤から活躍し始める、とあるキャラも、タゴサクと同じく人を馬鹿にしていますよね。二人ともダークな賢さを持っているのがいい。タゴサクと彼の会話は、おそらく傍から見たら何を話しているのか、本当の意味では理解できない。それでも、二人はお互いに似たもの同士だからこそ楽しく喋ることができているんだろうなと想像しています。彼らの掛け合いは楽しく読めましたね。
──タゴサクにとってのあのキャラのような存在は、須貝さんにもいらっしゃいますか?
須貝 お互いに馬鹿にしあえる友達はいますよ。たとえば僕がQuizKnockに加入するきっかけになった友人の田村正資は哲学の専門で、僕は物理学の専門。「物理学の観点から言うとこうだから、田村は馬鹿だな」みたいに言うと、「それは解釈の問題に過ぎない。科学という呪いに囚われているな!」と返ってくる。賢さをただ相手をディスるためのダシにしているんですね。そういう知識の楽しみ方は、決して悪いことじゃないと思います。日頃から物理の公式を覚えられない人には、それを使ってギャグにしなよ、とアドバイスすることもありますし。机を動かせないふりをして、「静止摩擦が大きすぎる!」と遊んでみなよ、と。その最終形態がきっとタゴサクと彼ですよね。僕らは人に迷惑をかけていませんが(笑)。
河村 知識をダシにして、学術的でない方向に進むとQuizKnockができるんですよ。静止摩擦が覚えられないなら、それが答えになるクイズで遊べば覚えられるでしょう、と。だから、タゴサクと彼のシーンの雰囲気は、ある意味では知っているものがあるなと思いながら読んでいました。もちろん、ここまで殺伐とはしていないですけどね。
須貝 そうだね、いつもの感じかも。タゴサクがベラベラ喋ってクイズを出して。
河村 彼にだけ通じればいい。
須貝 たとえば、僕と河村さんがシャーロック・ホームズの『踊る人形』の暗号を解く動画のときも、解いているときは本当に真剣で、視聴者にはこの解読プロセスはいっそ伝わらなくていいと思っていました。「ここにLが入るはずだよね」となぜ思いつくのかは、河村さんと僕の間でだけ通じていればいいや、と。
河村 後から説明すればいいや、と割り切っちゃうことがあるよね。出題者と解答者にしか通じないものがあるのかもしれない。その空気感が、あのシーンにはありました。

──作中で出てくるクイズは、解きながら読まれましたか?
須貝 僕は解けないですね(笑)。警察が気づいてくれるから大丈夫!
河村 僕も解けないですね~。ちなみに僕、東京の地理が苦手なので、沼袋のような閑静な住宅地の地名は初めて意識しました。
須貝 僕は秋葉原も含めて作中に出てくる爆弾が仕掛けられた場所も好きだし、登場している地名は全部想像できました。きっとあそこに爆弾があったんだな、と想像できて楽しかったですね。
──クイズを一緒に解いてみたいキャラクターはいましたか?
須貝 中盤から活躍する、タゴサクのクイズの解答者である彼とは気が合いそうかな。あのぶっきらぼうさも、友達の範囲なら許せます。それこそお互いを馬鹿にしあう友達関係を築けそうですね。脱出ゲームとか一緒に行ったら楽しそう。
河村 タゴサクは、脱出ゲームだと途中まではあまり活躍しないのに、大謎だけ一瞬で解きそうだよね。
須貝 わかる!(笑)

──作中の警察のように、何か大事なものをかけてクイズを解いたことはありますか?
須貝 ないですね。クイズを解く場面でかける大切なものは、自分のプライドだと僕は思います。自分の誇りをかけて、自分が自分であるためにクイズを解く。もしかしたらQuizKnockの他のメンバーにはあるかもしれないけれど、僕にはその気持ちはあまりないですね。
ただ、博士論文を提出した時には、人生かけて世界中でまだ解明されていない謎を一つ解いて、論文にして残すぞ! という気持ちがありました。
河村 僕もないですし、きっとこれからもないと確信しています。僕は遊んでいい場所にしかクイズは存在しないと考えています。設定だけで言うと「脱出できなかったら死ぬ」という脱出ゲームも、実際に死ぬことはない。あくまで遊びだという前提があるからこそ、楽しめるものがクイズだと思います。その点、須貝さんの論文は遊びではないかな、と。
だからこそ、東京中に爆弾を仕掛けたという遊んではいけない状況の中で、クイズをやっていることが本当にすごいなと思って読んでいました。やって楽しいからクイズは成立すると思っていましたが、あんなに深刻な状況においてもクイズが成立することが示されたのは、新しい。あの状況、本当はクイズやっている場合じゃないんですよね(笑)。リアリティは薄いかもしれませんが、それが最終的に動機に絡まっていく部分がすごく好きでした。
──『爆弾』はジャンルで言うとミステリーです。ミステリーにはトリックや犯人など色々な要素がありますが、お二人はどの要素が好きですか?
須貝 僕はミステリー小説においてトリックや動機はあまり興味がないんです。どんなにすごいトリックを見ても、「ひゃー、賢い!」と思って終わり。でも、その場から動かない探偵はカッコよくて好きですね。『謎解きはディナーのあとで』の影山みたいなタイプの探偵が好きです。『爆弾』の謎に挑む人物も似ていて、現場には行かないけれど解いてしまうじゃないですか。他の人が集めてきた情報を使って解く。今回は好きなパターンのミステリーでしたね。
河村 僕は読んでいて「なるほど!」と唸らされるものが好きですね。驚かされるトリックは面白さのポイントとしてわかりやすいかもしれないですが、実は動機もそうです。なんでこの犯罪をしたくなったのかという理由は、ミステリーに限らず純粋に楽しめます。それと、僕は最後に少しだけ犯人が勝つミステリーが好きなんです。頭が良い探偵に少しだけ、しこりを残すのが好きですね。犯人が実はもう死んでいた人でした、とか。
──好きなミステリー作品はありますか?
須貝 『謎解きはディナーのあとで』はとても好きですね。掛け合いも軽妙だし、謎解きの面白さも楽しめる。もう一冊は、麻耶雄嵩さんの『貴族探偵』。もともとアニメ化したライトノベルはよく読むんですけど、同じようにドラマ化されると聞いたので読んでみたところ、驚かされました! 小説でしかできない仕掛けですね。
河村 僕は京極夏彦さんの『魍魎の匣』。最後にある、あの仕掛けが好きで、「わかったけど……」と少し嫌なしこりが残るのが好きですね。あとは、漫画の『Q.E.D.証明終了』の第1巻の「銀の瞳」が好きです。

QuizKnockとは?
「楽しいから始まる学び」をコンセプトに掲げ、WebサイトやYouTube、ゲームアプリなどを展開するメディア。YouTubeのチャンネル登録者数はメインサブ累計で279万人を超えるなど人気を博している。
Twitter:@QuizKnock
河村・拓哉(かわむら・たくや)
1993年栃木県生まれ。東京大学理学部卒業。2016年、まだWebメディアだったQuizKnockの設立時から、ライターとして活躍。YouTubeの動画の企画も担当している。
Twitter:@kawamura_domo
須貝駿貴(すがい・しゅんき)
1991年京都府生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修了。2017年からQuizKnockに加入。自身の専門である理科の知識を活かした記事や、動画の企画などを担当している。
Twitter:@Sugai_Shunki
最新2作が連続で直木賞候補にノミネートされている呉勝浩さんの集大成!
都民1400万人を人質にとる無差別爆破テロが発生。犯人と思しき男は、名前も、動機も、そしてテロの目的すら明かさないーー。警察は爆発を止めることはできるのか。
既に書店員さんから「今年No.1ミステリ」「破壊力満点の面白さ」と熱い感想が届いている期待作です。
試し読みも公開中ですので、よろしければその衝撃を味わってください!
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発売日:4月20日(水)
ISBN:978-4-06-527347-0
定価:1,980円(本体1,800円)
[アートディレクション]高倉健太(GLYPH Inc.)
[カメラマン]瀬田秀行
[ヘアメイク]藤原 萌
[スタイリスト]柴田 圭(辻事務所)
[衣装協力]AKM