第25回/SATーlight 警視庁特殊班/矢月秀作
文字数 2,385文字
SITやSAT(警視庁特殊部隊)よりも小回りが利く「SATーlight(警視庁特殊班)」の面々の活躍を描く警察アクション・ミステリー。
地下アイドルの闇に迫るSATメンバーたちの活躍を描きます!
それぞれが潜伏捜査を続けていたSAT-lightのメンバーたちは──⁉
毎週水曜日17時に更新しますので、お楽しみに!
《警視庁特殊班=SAT-lightメンバー》
真田一徹 40歳で班のチーフ。元SATの隊員で、事故で部下を死なせてSATを辞めたところを警視庁副総監にスカウトされた。
浅倉圭吾 28歳の巡査部長。常に冷静で、判断も的確で速い。元機動捜査隊所属(以下2名も)
八木沢芽衣 25歳の巡査部長。格闘技に心得があり、巨漢にも怯まない。
平間秋介 27歳の巡査。鍛え上げられた肉体で、凶悪犯に立ち向かう。
「わかるわよ。若い人がうちに来てみのりちゃんの名前を出すなんて、調子が良すぎるもの。それに半世紀以上、この仕事をしているんだから、普通の人とは違うニオイはわかるわ。警察の方ね?」
サクラが迷わず言う。
浅倉はうつむいた。小さく息をついて、顔を上げる。
「警視庁特殊班の浅倉と申します。新設部署なのでお疑いかと思いますが、身分証は今持ち合わせていないもので」
「いいのよ。あなたが悪い側の人だとは思っていないから」
サクラはもう一口、水割りを飲んだ。
「で、金田さんに何の用かしら?」
「金田さんにお会いして伺いたいことがあります。仔細は申し上げられませんが」
「売春のことかしら?」
サクラが切り出す。
浅倉はまたも息を詰めた。サクラは目を細めた。
「あなた、素直ね。それじゃあ、悪い連中に読み切られてしまいますよ」
「いや……面目ないです」
浅倉は苦笑して、頭を掻いた。顔を上げ、真顔で見つめる。
「金田さんがどちらにいらっしゃるのか、ご存じありませんか。少しでも早く、問題を解決しなければ、若い女の子たちに被害が及びます」
「それは大変ね……」
サクラは言うと、厨房のカーテンの奥に引っ込んだ。
連絡先でも確かめに行ったのか。そう思って待っていると、サクラが戻ってきた。
「あなたの言葉を信じましょう」
サクラは言い、カーテンを大きく開いた。
その奥に立っていたのは、金田牧郎だった。
4
ハニラバの常連客であるライチとキノピは、連絡を取って新宿三丁目で落ち合った。
二人とも、メンバーから〝助けて〟というメッセージを受け取っていたからだ。
ファミリーレストランに入り、ドリンクバーだけを頼んだ。二人の前にはコーヒーがある。しかし、ライチもキノピも一口も手を付けていなかった。
最初に挨拶を交わしただけで、二人してテーブルを挟んでうつむいている。
どのくらい時間が経ったのかわからない。おそらく十分程度の沈黙だろうと思うが、ライチがふとため息をついた。
それをきっかけに、キノピが顔を上げ、話しかけた。
「どうしましょうか、ライチさん……」
「うん……」
ライチはうつむいたまま、腕を組んだ。やおら、顔を上げる。
「タクさんにも連絡来てるのかな」
ライチが言う。
「タクさんの連絡先知らないから、わからないけど……」
キノピが答える。
また、二人はうつむいて、押し黙った。
と、ライチのスマホが鳴った。ライチはスマホを出して、画面を見た。メッセージが届いていた。
「ミミちゃん?」
キノピが訊くと、ライチがうなずいた。
メッセージに目を通す。ライチが目を見開いた。
「どうしたの?」
キノピはその様子を見て、身を乗り出した。
「アイリちゃんが逃げ出したらしい」
ライチのつぶやきを聞いて、キノピの顔が強ばった。
「ミミちゃんたちは?」
「一人で逃げ出したそうだ。他のメンバーはまだ、どこかの別荘に閉じ込められているらしい」
「タクさんに連絡したのかな?」
「たぶん。そうだと思うけど……」
ライチは歯切れが悪い。
「アイリちゃんがタクさんに助けられたとしたら、警察に行くのかな」
「アイリちゃんも、一人逃げ出して警察に駆け込むと、他のメンバーがヤバいことはわかってると思うから、タクさんに強引に連れて行かれない限り、行かないと思うんだが」
ライチはコーヒーカップを取った。ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干して立ち上がる。
「どこに行くの?」
キノピはライチを見上げた。
「フラップの事務所に行ってみよう」
「えっ」
キノピは目を丸くした。
「ここからすぐだし。事務所の人に伝えれば、何か手を打ってくれるかもしれない」
「待って待って」
キノピは右手を伸ばして、ライチの左腕を握った。引っ張って座らせ、そのままテーブルを乗り越えるように身を寄せた。
「これも事務所主導のP案件じゃないの?」
小声で言う。
「そうかもしれないけど、さすがにメンバー全員を監禁するような人には、事務所も売らないでしょうよ」
ライチがキノピの目を覗き込む。
「とりあえず、事務所の人に話してみて、もしグルなら、警察に行こう。それしかないと思うけど。どう?」
ライチは顔を近づけた。鼻先が触れる。
キノピは仰け反って、顔を離した。
矢月 秀作(やづき・しゅうさく)
1964年、兵庫県生まれ。文芸誌の編集を経て、1994年に『冗舌な死者』で作家デビュー。ハードアクションを中心にさまざまな作品を手掛ける。シリーズ作品でも知られ「もぐら」シリーズ、「D1」シリーズ、「リンクス」シリーズなどを発表しいてる。2014年には『ACT 警視庁特別潜入捜査班』を刊行。本作へと続く作品として話題となった。その他の著書に『カミカゼ ―警視庁公安0課―』『スティングス 特例捜査班』『光芒』『フィードバック』『刑事学校』『ESP』などがある。