2冊目/谷川流の『涼宮ハルヒの憂鬱』
文字数 1,531文字
WEBメディアやYouTube、はては地上波ゴールデンまでーー。
幅広く活躍の場を広げ続ける東大発のクイズ集団「QuizKnock」。
treeでは、その第一線で活躍するメインライターのひとり、河村・拓哉さんに書評連載の筆を執っていただきました。ご自身としては初となる書評連載です。
第2回では谷川流さんの『涼宮ハルヒの憂鬱』(KADOKAWA)について語っていただきました。
ライトノベルである。ライトノベルというのは、これは僕の考える定義だけど、10代の若者をメインターゲットにした小説ジャンルだ。ずっと好きだという人も多いけれど(僕もそう!)、歳を重ねるにつれジャンル自体から離れていく人も多い。僕にしたって10代の時ほど読めてはいない。学生時代のどこかに、ラノベへの興味のピークがあった、という人は多いんじゃないか。
そして、ライトノベルには流行りがある。名前だけ挙げるが、セカイ系、ボカロ原作、なろう系……。流行の歴史は地層のように積み重なっている。しかもラノベは市場の回転が早い。新しい作品がどんどん発表される中で、少しでも古い本は店頭から追い出されていく。
だからライトノベル読者は世代ごとに読んだライトノベルの作風を共有している。
ゼロ年代に青春を送った僕たちは、ハルヒや、ハルヒ的な作品で育った。
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
普通の日々を送ることを拒否するエキセントリック美少女・涼宮ハルヒは、主人公キョンを含む様々なキャラを巻き込みながら非日常を探し求める。このキャラたち、実は○○で、キョンの日常は奇想天外なものに……というのがあらすじ。先にあげたのはハルヒを象徴する名台詞で、つまらない日常への決別表明だ。
だから僕たちは日常をつまらないものだとみなしたし、非日常を空想した。いきなりファンタジー存在に出会うことや、うっかり美少女と知り合うことを期待した。もちろん心の底からそんなアイデアを信じてはいなかったけれど、実現したら嬉しいのも本当で、だから「もしかしたら」を手放すことは無かった。
『涼宮ハルヒの憂鬱』はそんな僕らの拠り所だった。SFとファンタジーを混ぜたような奇想のアイデアたちに憧れて、僕たちは色々な空想を思い描いた。
僕は今グループでYouTuberをやっている。YouTuberとして大切なことを、ハルヒは僕に3つ与えてくれた。
まず、仲間と話が合うこと。僕はチームメイトと読書体験を共有している。
次に、平凡な日々への怒り。特別な時間を形作る職業だから、退屈への反抗を続けなければいけないのだ。僕はもう日常が決してつまらないばかりのものではないことを知ってしまったけれど、この気持ちを今でも忘れないのは、ハルヒのおかげ。
最後に、アイデア力。読書後に考える色々な空想が、僕の想像力を高めてくれた。これもやっぱり、ハルヒのおかげ。
書き手:河村・拓哉
YouTuber。Webメディア&YouTubeチャンネル「QuizKnock」のメンバーとして東大卒クイズ王・伊沢拓司らと共に活動。東京大学理学部在籍。Twitter:@kawamura_domo