第80回

文字数 2,564文字

冬と思いきやあったかくなってきた。


令和ちゃんが季節のスイッチを切り替えミスった感じですが(今年何度目)みなさまいかがお過ごしでしょうか。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

前回と前々回で「人間にとって一番大事なのは自己肯定感」みたいなことを、ホッピーをいいちこで割ったヤツ片手に熱弁、もしくは熱弁する夢を見たような気がするが、それは一旦おドック様にでも食べさせてほしい。

もしおドック様が召し上がらないなら、私が明日の朝食べるのでラップしておいてくれ。


やはり人間にとって大切なのは「健康」である。言葉ではなく、かといって魂でもなく、体で学んだ。


最近「親ガチャ」という言葉が注目を集めたようだ。

しかし、世の中の大体のことには猿の惑星オチやニーチェ構文が通用してしまうもので、こちらが親ガチャ大爆死だと嘆いている時、親もまた子ガチャドブったとこめかみを押さえ、引き直しのために父が母にアイチューンカードを差し込んでいたりするものである。


「親ガチャ」とは、子どもは親を選べないし、親の時点で子どもの人生は決まっているという考え方のことである。

確かに親が子供に無影響とは言い難く、大きなアドバンテージやハンデになることは否定できない。

しかし「無機物も30回以上噛めば食い物になる」が家訓の家に育った方でも、努力して今では「噛む前でも食い物」を三食食えている人もいるだろうし、裕福な家に生まれながら、むしろ裕福だからこそ、珍しい葉っぱや不思議な粉コレクションがやめられず、バッドスメルライスというある意味一般市民には縁のないご当地グルメを嗜みに、陸の孤島の別荘へ定期的にバカンスへ行ってしまう人もいる。


このように、無関係ではないが親が全てとも言い切れないのが親ガチャである。

それよりも、もっと運だのみで、そして努力のしようもないのが「健康ガチャ」な気がする。


生まれた時点で体の強弱、病気の有無などの違いがあり、時には不治の病を持って生まれてくる人もおり、それはもはや本人の努力でどうにかなる問題ではない。


つまり、健康体で生まれた時点でSSRなのである。

しかし親ガチャ以上にSSRを引いた人間はその自覚がなく、ソシャゲで言えば、せっかく引いたSSRをロックもかけず、1回の誤タップでレアプリズムと化しかねない位置に置くようなぞんざいな扱いをしている者もいる。


簡単に言えばせっかく健康に生まれたのに、それを大事にせず、SSRをSRからN、そしてソシャゲ界にも存在しないB(ad)に変えてしまう人間が多いのである。

「レアプリ☆5に戻らず」という諺が昔からあるように、失った健康を取り戻すのは容易ではなく、二度と戻らないことさえある。

そしてこれは、最初から持っていた健康というSSRを大事にしておけば防げたことかもしれないのだ。


ワンガリさんも草葉の陰で激オコのMOTTAINAI案件である。


何故そんなことを改めて思ったかというと、コロナワクチンの2回目を打ったからだ。


コロナワクチンには副反応というものがあり、私も例外なくそれに襲われたのだが、もしかしてコロナに罹るよりも副反応の方が辛いのでは、と疑うレベルで苛酷であった。


ちなみにワクチンの種類によって副反応の強さも違うようで、甘口カレーを食ってるようなネンネはママのおっぱいことファイザーでも打ってな、ということらしいのだが、我が村では「打つストゼロ」でおなじみのモデルナしか予約が取れなかったので仕方なくそれにした。


その結果、本当にストゼロを静脈に打った人のようになってしまった。

症状がインフルエンザに酷似しており、病気を防ぐために病気になるというプラマイゼロの状態である。


私は常にどこかが軽く痛いという、永遠に靴下に小石が入っているかのような生活をしているが基本的に健康であり、風邪すら滅多に引かない。

例外として歯だけは二十代で入れ歯を勧められるレベルのBだが、それも生えた時既に神経が死んでいた、というわけではなく、健康な歯を大事にしなかった結果と言える。


つまり典型的なSSRの価値に気づいてない奴だったのだが、この度、強制インフルエンザで一日動けなくなって、改めて健康のありがたさを知った次第である。


健康でないとまず物理的に動けなくなるし、またメンタルにもダイレクトアタックがしかけられる。

やはり人間どこかが痛かったり苦しかったりすると、あまり明るいことは考えられなくなるのだ。

特にひきこもりは健康を害しやすい上に、健康を害すと死に直結しやすい。

健康な時は一人でも良いのだが、体調を崩した時というのは、肉体的にも精神的にも周囲に人がいるかどうかが重要になってくる。

一人だと体調が悪くても自分で動かなければいけないし、精神的にも不安になりやすい。


つまりひきこもりが健康を害すと、一気に破綻しやすいということだ。健康には人一倍気をつけなければいけない。

しかし、ストゼロを静脈注射など、不健康なことをしていても誰も咎めないのがひきこもりである。周囲に注意してくれる人間がいる者より、高い健康意識が必要である。


私も人工インフルエンザになったことにより、もっと健康に気をつけようと肝に銘じたのだが、銘じたのが肝だったせいか見ることができない。

よって現在、深夜二時に望遠鏡の代わりにカップ焼きそばを担いで自室に戻ってきたところである。


体調が悪い時は健康のありがたみを実感できるが、それが収まるとまた忘れてしまうものである。

定期的に思い出せるように、一ヵ月に1回はワクチンを打ってジェネリックインフルエンザになった方がいいのかもしれない。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は11月12日(金)です。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色