◆No.2 禁じ手のファンタジー歴史小説

文字数 1,549文字

応仁の乱後、将軍義尚が幕府に背いた六角氏征伐のために湖南の鈎に陣を敷くと、甲賀忍者の三郎兵衛たちは甲賀山中でゲリラ戦を展開する。甲賀忍者の最強無敵の忍術「神遊観」をめぐって甲賀、伊賀、そして幕府が絡み合う……! 甲賀忍者と許されない恋を描いた忍者エンタメ小説『神遊の城』執筆の裏話を、著者・赤神 諒氏が語ります!

『神遊の城』はファンタジー小説です。

SFとファンタジーは、人によって捉え方が違い、区別も明確ではありませんが、いずれも現実には存在しない世界を舞台とする作品です。

ミステリーに比べると、エンタメ小説としては近年必ずしも人気がないようですが、優れたライトノベルやアニメに圧倒されているだけで、潜在的なニーズはあると思うのです。

私の他の小説では、〈時代考証〉や〈史実〉よりも〈わかりやすさ〉と〈面白さ〉を、かなり優先させていますが(やりすぎだろ)、今のところ全てリアルな物理法則の世界です。

死んだ人間は決して生き返らず、幽霊が出てきて予言したりもしません。

これに対し、『神遊』は珍しくファンタジーの要素を正面から設定しました。

私は世界観構築作業が好きなので、かねてファンタジーを書きたいと思ってきましたし、内緒ですが、誘惑に負けてこっそり書いたりしています(そんな時間あったら締め切り守れよ)。

歴史小説では暗黙の了解として、作者により幅はあれ、一定の史実を前提としますが、陰陽師や忍者ものではファンタジーがおおらかに許容されています。

ファンタジーを書きたいから、忍者ものにしたわけですね。

ただ、何でもありのファンタジーは、あまり私の好みではありません。

私の好みなど実際どうでもいいのですが、長編小説を一本仕上げるのは非常に重たい作業でして、好みでないと、とてもやり遂げられないのです。

ファンタジーにするには、例えば人が空を飛べるとか、姿を消せるとか、何でもたった一つ、現実にはありえない設定を置くだけで十分。世界観は劇的に変わります。

本作品では、究極の忍術<神遊観>だけがファンタジーです。

それが物語の鍵なので、完璧なファンタジー小説になってしまうわけですが……。

神遊観は私の完全な創作ではなく、忍術の一類型として分類されて伝わっている、れっきとした?忍術です。

あまりにも強すぎるため、これをやられたら相手はまず勝てません。

そこで、使用には種々の制約を設けていますが、そのあたりは私のオリジナルです。

神遊観以外にファンタジー要素は皆無で、忍術も他はリアルにしてありますので、無茶な雲隠れも出来ませんし、水の上も歩けません。火薬やオーソドックスな武器を使う能力に優れ、跳躍力も鍛えて少し高いという程度です。

冒頭と最終章を除き、この作品で視点人物を二人のヒロインに設定しているのは、神遊観の秘密を読者向けに隠すためなんですね。

ところで、私は「ぜひ自作品の映像化を!」と熱望しておりますが、この作品は相当難しいでしょう。おっと――勘の鋭い方にはネタバレになってしまうかも。

『神遊』は、小説でしかお楽しみ頂けない作品ですね。

※三雲城(滋賀県湖南市)

赤神 (あかがみ・りょう)

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。同作品は「新人離れしたデビュー作」として大いに話題となった。他の著書に『大友の聖将『大友落月記』神遊の城』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』 村上水軍の神姫』北前船用心棒 赤穂ノ湊 犬侍見参』『立花三将伝』などがある。

★こちらもオススメ!↓↓
●名もなき将たちに捧ぐ 『酔象の流儀』篇 ↓↓
●名もなき将たちに捧ぐ~立花三将伝~ ↓↓

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色