[essay]海外ドラマ470話を観た作家が選ぶ「死亡フラグ」Best3/友理潤

文字数 4,038文字

『24』や『セックス・アンド・ザ・シティ』が流行した90年代後半から2000年代初頭、「海外ドラマは一度はまると止められない」「海外ドラマを徹夜でいっき見した」などと、その中毒性について小耳に挟んだことはありましたが、まさか自分が今になってその餌食になろうとは微塵も思っていませんでした。


 新型コロナウィルスの影響で「おうち時間」が増えてから数ヵ月。気づけば海外ドラマにどっぷりはまり、視聴数は470話を超えていました。
 ジェットコースターのような展開の面白さに加え、複数シーズン、長い作品では10年以上も継続する番組の性質ゆえか、主要な登場人物があっさりと死んでしまうのも海外ドラマの特徴の一つ。
 はじめのうちは、彼らが死ぬたびに、突然背後から「わっ!」と大声をあげられたかのようにビックリして言葉を失っていましたが、今では、「あ、この人、もうすぐ死ぬかも」というドライな予感を働かせることができるようになりました。
 それも様々な「死亡の前触れとなるできごと」……すなわち「死亡フラグ」を見てきたからに違いありません。
 そこで僭越ながら、私が観てきた中で、「見事だな!」と思う、理想の「死亡フラグ」ベスト3を挙げてみようと思います。

【第3位】『W・D』のM・D

●巧妙さ:★★

●感動度:★★


【フラグが立った瞬間】

悪逆非道で自分が生き延びるためなら何でもするような男が、生き別れた弟とその仲間を守るため、一人で死地へ赴いた時。

 限られた物資を巡り、人間同士の殺し合いが日常となった世界で、人種差別主義、女性蔑視、協調性まるでゼロの利己主義と、あらゆる「悪」の要素を兼ね備えたその男は、ストーリー序盤で主人公によって仲間の一員から排除されてしまう。
 しかし数シーズン後、敵対するグループの幹部として主人公たちと再会。生き別れた弟が主人公の仲間の一員であると知った彼は、弟と行動を共にするために、主人公たちのもとへ戻ることを決める。
 当然、はじめのうちは周囲から煙たがられた。しかし弟の立場が悪くならないよう振舞ううちに、過去のあやまちと向き合い、徐々に溶け込んでいく。

 そしてかつて自分がいた敵対グループと主人公たちの抗争が激しさを増す中、絶望的な戦力差を分かっていながら単身で挑み、殺されてしまう――。


「死亡フラグ」のパターンとしては、ありがちかもしれません。

 しかし、そのフラグを立てた人が、煮ても焼いても食えないような悪党だったことがポイントだと思います。なぜならこの手のフラグは、はじめから主人公の仲間だった人が立てるケースが多いからです。
 意外性が大きいほど、インパクトも大きくなる――そのことを明確に示した例と言えるでしょう。

【第2位】『M』のP

●巧妙さ:★★

●感動度:★★


【フラグが立った瞬間】

凶悪な殺人鬼『R』を追う主人公(警察の関係者)が、証拠不十分で逮捕できなかった連続殺人犯に対し、『R』を仕向ける罠を張った時。

「R」は無差別に人を殺め続ける殺人鬼。テレビを通じて挑発してきた相手に対し、殺すか、大事な家族を殺して苦しめるか、のどちらかで制裁を加えてきた。

 一方の主人公は、「R」の手で妻子を殺され、復讐を果たすために警察の一員となっていた。「R」を追う一方で、他の事件を解決してきた主人公だったが、とある連続殺人犯を追い詰めたものの、決定的な証拠がつかめないまま事件の担当から外されてしまう。
 勝利を確信し、高笑いする彼に対して、主人公はテレビでの対談を持ち掛ける。
 表向きでは事件の被害者支援の代表だった連続殺人犯は、主人公の申し出を快諾した。彼にとっては自分がいかに優れた殺人犯であるかを世間に知らしめる舞台となるはずだった。
「連続殺人犯は警察よりも有能だと証明されてしまった」と白々しく落胆する彼に対し、主人公は「その連続殺人犯は『R』よりも優れていると思うか」と問う。
 調子に乗った彼は、「当たり前だ。『R』なんか足元にもおよばない」と答えてしまう。
 つまりテレビを通じて「R」を挑発してしまったのだ。
 その日の夜、彼は全身を切り刻まれた遺体となって発見されたのだった――。


 これは観ていてゾクリと鳥肌が立ちました。
 まさか善人である主人公が、「R」の残虐性を利用して、連続殺人犯を亡き者にしようとするなんて、想像すらしていなかったからです。
 相手に「死亡フラグ」を立てるトリックとしては、意外性も鮮やかさも群を抜いていると感じました。

【第1位】『P・B』のB・B

●巧妙さ:★★

●感動度:★★


【フラグが立った瞬間】

嫌われもので、仲間たちからラストネームでしか呼ばれていなかった男が、献身的な行動をし続けたことで、ファーストネームで呼ばれた時。

 自分の利益のためだけに生きてきたその男は、シーズン1から主人公をとことん追いつめる敵役。しかしシーズンを重ねるたびに少しずつ主人公たちとの距離が近づき、シーズン4からは巨悪に立ち向かう主人公の仲間の一員として名を連ねる。
 それでもかつての彼から受けた仕打ちからか、主人公たちは心に壁を作り、名を呼ぶ際にはラストネームを用いていた。
 しかし彼は変わっていく。仲間たちひとりひとりの抱える背景と、自分のこれまでの人生を比較し、いかに自分が身勝手に生きてきたのかということを思い知ったからだ。
 仲間がくじけそうになれば一生懸命に励まし、危機になれば体を張って助けた。
 そうしていつしか彼は仲間たちからファーストネームで呼ばれるようになる。すなわち真の仲間として認められた証だった。
 しかしそれは同時に「死亡フラグ」が立った瞬間でもあった。
 その直後、彼は主人公たちを襲った絶体絶命の危機に対し、自らの身を犠牲にすることを選んだ。そして主人公たちが彼のファーストネームを叫び続ける中で、散っていったのである。


 シーズン1が終わった時点で、もっとも嫌いなキャラを問われれば、迷うことなく彼の名を挙げたでしょう。しかし全てのシーズンを通したうえで、もっとも好きなキャラを問われたならば、私は真っ先に彼の名を挙げます。
 これほどまでに自分の中で評価を真逆にした登場人物は初めてでした。
 彼の死に様が見事だったからに違いありません。
 まさに非の打ち所がない、理想の「死亡フラグ」だったと言えます。

◇◇

「死亡フラグ」は、登場人物たちに対する、制作側の愛やリスペクトのあらわれだと、私は思っています。だからこそ綿密に練られた「死亡フラグ」が存在する作品は非常に質が高く、面白い。

 読者の皆様も、増えたおうち時間を利用して、ドラマや小説の「死亡フラグ」探しに挑戦してみてはいかがでしょうか。

 最後になりましたが、私の著書『絶対回避のフラグブレイカー』シリーズの最新刊が、レジェンドノベルスより10月に刊行されました。
 このシリーズでは、異世界に飛ばされてしまった主人公が、様々な「死亡フラグ」を回避しながら、物語の真相に迫っていく、というストーリーになっております。
 第一巻はホラーアニメ、第二巻はRPGが舞台で、それぞれの世界で「ありがちな死亡フラグ」が続々と登場します。
 この記事を読んで「死亡フラグ」に興味がわいたら、手に取っていただけると幸いです。

絶対回避のフラグブレイカー 1 美少女吸血鬼に殺されないための27の法則
著:友理潤 装画:岩崎美奈子
【あらすじ】
 気がつくと俺は、妹とハマったファンタジーホラーアニメ『キープ・キリング』の世界にいた――初回放送であっさり惨殺される冴えない登場人物として。
 そんなチョイ役で死んでたまるか! この世界では、頭上に漆黒の「死亡フラグ」が現れた者が凄惨な死を迎えるというルールがある。逆に言えば、死亡フラグさえ立たなければいい。どうやらこの世界の人間で死亡フラグが見えるのは俺だけらしく、俺はこのアニメの設定資料も熟読しているオタクだ。妹から伝授された「死亡フラグ回避術」をたよりに、クライマックスまで生き延びてやろうじゃないか――!
『絶対に死にたくない冴えないモブ男』VS『絶対に殺したい美少女ヴァンパイア』。設定を逆手に取って突き進む先には、視聴者が見ることのなかった物語の“真相”が――!?
絶対回避のフラグブレイカー 2 ハッピーエンドをつかむための25の法則
著:友理潤 装画:岩崎美奈子
【あらすじ】
 アニメ『キープ・キリング』の世界から帰還した“俺”こと中村翔太。妹・ミカの病も奇跡的に回復し、翔太を追ってこちらの世界に現れたアルメーヌや病院の同僚たちと過ごす日常が訪れた。最近ミカが入院仲間の少年・怜音と一緒にハマっているのは、スマホゲーム版の『キープ・キリング』。平和なひとときもつかの間、ミカが“魔王”を名乗るメッセージとともに、ゲーム版『キープ・キリング』の世界へと連れ去られたのは、それからしばらく後のことだった――
 冒険の舞台は、“アニメ”から“スマホRPG”へ! 大事な人を救うため、“全滅フラグ”を回避しながら魔王のもとに向かう翔太たちの行く手を阻むのは、“RPGあるある”とも言える事件の数々。ゲーム知識と機転で危機をかわし、たどり着いた先に待ち受けていたのは!?

Author:友理潤(ゆり・じゅん)

2017年に『太閤を継ぐ者 逆境からはじまる豊臣秀頼への転生ライフ』が第六回ネット小説大賞で受賞すると、2018年1月に同作(宝島社)でデビュー。翌2019年には児童向け小説(短編)が『たちまちクライマックス ボクは絶対にひっかからない‼』(ポプラ社)に収録、また同年には近未来の青春SF小説『余命5分の恋人』がアルファポリス社主催の『第二回ライト文芸大賞』で受賞。

最新作は講談社レジェンドノベルス刊『絶対回避のフラグブレイカー』シリーズ。


趣味は犬の散歩やテレビでスポーツ観戦など。

また無二のどら焼き好きでもある。

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