「群像」2022年4月号
文字数 1,469文字
このコーナーでは、そんな編集後記を選り抜きでお届けします。
ロシア軍がウクライナ侵攻を始めた日、芥川賞の贈呈式があった。砂川文次さんは受賞スピーチで、きわめて端的に「怒り」を表明した。衝撃を受けた。会場全体もとまどっているように見えた。「海の向こうで始まろうとしている戦争」に対しての、温度感の絶対的な差、ではなかったか。少なくとも私はそうだった。気にはしていた。が、やはり「海の/テレビの向こう」のこととして「処理」していた。
このとまどいの感覚は、TBSのドキュメンタリー番組『日の丸』の街頭インタビューを観たときに得たものと似ていた。詳しくは2022年度版を監督した佐井大紀さんによる今月の論点「なぜいまドキュラマを撮るのか?」をお読みいただきたいが、1967年の女子大生あるいは22年の佐井さんが突きつける「日の丸」への質問に見せた、取材対象者の生々しい表情と口ぶり―対象者のとまどいは私のとまどいへと変わる。67年度版を構成した寺山修司は「情念の反動化への挑戦」だったとしている。この姿勢は現代にも通じるもので、「処理」に抗う「変化」の際に必要な起爆剤なのではないかと思う。本誌ではこれまでもテレビメディアで思考する人々の文章を取りあげてきたが、そこには必ず「現場」の言葉があった。砂川さんの言葉もそうだ。業界やメディアの違いにこだわることなく、群像は「現場」の言葉をこれからも探究掲載していきます。
創作は金原ひとみさん、くどうれいんさん、早助よう子さん、藤野可織さん、長短バラエティに富んだ4作をお届けします。
◎自明な感覚をゆるがすような映像作品で注目されるアーティスト百瀬文さんによる連載エッセイ「なめらかな人」がスタート。
◎9、10と毎年カウントをしてきた「震災後の世界」。今年は永井玲衣さんに寄稿をお願いしました。
◎『ヒカリ文集』刊行を記念して、瀧井朝世さんを聞き手に松浦理英子さんのインタビュー、沼田真佑さんによる書評で小特集を組んでいます。
◎批評は安藤礼二さんの連作「空海」。尾崎真理子さんの「『万延元年のフットボール』のなかの『夜明け前』」は今号で完結となります。藤井光さんの「翻訳」と「裏切り」というショッキングな交差を論じた「翻訳と「裏切り」をめぐって」も必読です。
◎現代新書から刊行された吉増剛造さん『詩とは何か』を中心とした、郷原佳以さんによるインタビュー。
◎斉藤倫さん「ポエトリー・ドッグス」が最終回(単行本は弊社から刊行予定)。あのバーの、最後のお通しは―。
◎コラボ連載「SEEDS」は、ヒロ・ヒライさん「謎の魔術書がひらく「知のグローバル・ヒストリー」」。今号もどうぞよろしくお願いいたします。
石原慎太郎さん、西村賢太さんが逝去されました。富岡幸一郎さん、阿部公彦さん、町田康さんに追悼文をいただいております。謹んでお悔やみを申し上げます。 (T)
〇群像3月号574~575ページの小林エリカさんによる書評タイトルが間違っておりました。正しくは「この沼はどこまでも深くて恐ろしい沼」です。お詫びして訂正します。
〇投稿はすべて新人賞への応募原稿として取り扱わせていただきます。なお原稿は返却いたしませんので必ずコピーをとってお送りください。
〇大澤真幸氏、斎藤幸平氏、長野まゆみ氏、保阪正康氏、堀江敏幸氏の連載、創作合評は休載いたします。