第11回

文字数 2,442文字

感染拡大がいったん収まり、一部外出や経済活動が解禁されたものの「withコロナ」時代を生きることになった人類。


仕事も飲み会も「家でやろう」に変わり、パリピやリア充からまさかのひきこもりに主役の座が移ったように見える。


しかし、「明治維新以来の日本の夜明け」とのぬか喜びは禁物、そこには様々な罠も潜んでいた!?


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする困難な時代のサバイブ術!

緊急事態宣言による外出自粛要請により、在宅勤務や待機などで一時的にひきこもり生活になった者に話を聞くと、会社より集中できた、これを機に資格の勉強と乳首の開発に勤しんでみたなど、ピンチをチャンスや性感帯に変えた意識の高い人間もいるにはいる。


しかし、どちらかというと、仕事が全然捗らない、気づいたらツイッターをやってしまっている、いとも容易く昼夜が逆転した、風呂に入らなくなった、太って乳首が陥没した、という人の方が多い印象である。


つまり、ひきこもり生活のメリットは、居心地の良い場所に一人でいられるため、自由でストレスが少ないという点であり、デメリットはそれ故に「堕落しやすい」という点である。


堕落は無気力を引き起こし、無気力は精神的にも肉体的にも万病の素である。


今後運良く2兆円を手に入れるなどして、完璧なひきこもり生活ができるようになったとしても、堕落から無気力に陥ってしまったら、会社なる毒沼に浸かっているよりも早死にてしまう恐れがある。それはあまりにもバカらしい。


そうならないためには「自由を律する」という「拳銃による和平」みたいなある意味矛盾した行為を行わなければいけない。


だからと言って、堕落する自信があるタイプが綿密なスケジュールを立てても続くはずがなく、むしろキツく縛った分だけ、解き放たれた時二度と戻ってこなくなってしまうのだ。


よって最初は「要所」だけ決めた方が良い。


まず大事なのは「起床時間」だ。


ひきこもり生活のメリットというのは裏を返せば全部デメリットなのである。


ひきこもりの最大のメリットといえば「出社時刻がない」、つまり「朝好きなだけ寝ていられる」という点だと思うかもしれない。


その通りなのだが、そこをあえて、起きる時間は決めた方が良い。


そんなのマグロのトロを捨てて、メガネっ娘のメガネを粉砕するようなものではないか、と思うだろう。

しかし、それを差し引いても、ひきこもりには人間のコスプレをしたり、満員電車で体を75%に圧縮される煩わしさがないのだからそれで良しとして、起きる時間と、仕事や家事などの活動開始時間は厳密に決めた方が良い。


「おわり良ければすべてよし」というが、ひきこもり生活はどちらかというとはじまりの方が大事である。


例えば、朝目が覚めて、ひきこもりの醍醐味二度寝をブチかまし、次目が覚めた時「11時半」とかだったら「今日はもういいか」となってしまうのである。

もちろんいいわけないのだが、何しろ投票権を持っている奴が一人しかいないため、そういう法案が簡単に通ってしまうのである。


仮にそこから仕事を始めたとしても、大きく遅れをとっているため、終わるのが午前3時とかになってしまい、そこから昼夜が逆転してしまう。


だが、スタート時間さえ厳密に守れば、その後ある程度堕落しても、その日絶対やらなければいけないこと、ぐらいは終わらせることが出来るし、寝る時間もそこまで狂うことがない。


そして、飯と風呂の時間も決めておいたほうが良い。


あまり意識されていないが、飯や風呂というのは生活のメリハリを作り出す効果がある。


断食道場をした人のレポによると、食事がないことにより、一日に区切りというものが存在せず精神的に辛かったという。

区切りというのはある意味ゴールなので、それがないのは、何に使うかわからん穴を掘り続けるのと同じである。

飯を抜くというのは、健康だけではなく精神的にも極めて健康に悪いのだ。


そして、意外と忘れがちなのは「休憩」を取ることである。


気づいたら、ソシャゲやツイッターをやっているのだから、むしろ休憩しかしていないのでは、と思うかもしれないが、冷静になってほしい。

ブルーライトで網膜を焼きながらロミオメールまとめなどを見る行為が、何故「休憩」などと言えるのか。

「気づいたら寝てしまっている」という人は、仕事は捗らないかもしれないが、ある意味健康であり、「何も進んでいないのに何故か疲れている」というひきこもりの多くが「全く休憩を取っていない」というトライアスロンに挑戦してしまっているのだ。


また、ひきこもりには土日という概念がない。これは休もうと思えばいつでも休めるというメリットでもあるが、逆に「休みがなくなる」というデメリットでもある。


現に私は、無職になって以来「この日は1日何もしない」という日が1日も作れないまま2年経ってしまった。

会社勤めをしていると、まともな企業であれば、この日は休めと会社が決めてくれるが、ひきこもりは、休みすら自分で作り出さないといけないのである。


つまり、スケジュールを決めて行動することが大事なのだが、仕事や家事など気乗りしないことのスケジュールを決めても、やる気になるわけがない。


よって、開始時間だけは守り、あとは飯とか、この時間にはオフトゥンに入るなど、楽しい方の予定を先に立てればそれまでの時間を潰すために、仕事なる暇つぶしをしないこともないのである。

★次回は7月17日(金)更新です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色