第40回
文字数 2,919文字
流石にちょっと寒すぎる。厳冬にこそひきこもり。
ガンガン部屋を熱して乗り過ごしましょう、コロナ・ウインター。
どんな季節も自室に籠城、
インターネットが私たちの庭なんです。
脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、
困難な時代のサバイブ術!
リモートワークの広がりにより会社員すら家から出ずにできるとわかった今、ひきこもりはもはや社会問題ではなくライフスタイルであると提唱し、ひきこもりの地位向上に努めてきたわけだが、イマイチ「犯罪者予備軍」「最終的に身内に始末される人」というイメージをぬぐえない。
しかし、本当に家から出なくても過不足なく暮らせるところまではきているのだ。
実際、先日の全国的大寒波で我が村も積雪が続き、丸一週間家から出られなかったがちゃんと生きている。もしくは雪の中で生きている夢を見ているという、八甲田山状態に成功している。
むしろ外で社会生活を送るより、ひきこもり生活の方が優れている面もたくさんあるのだ。
では「ひきこもり」がライフスタイルとして受け入れられるには、あと何が足りないのか、というと、やはり「カッコよさ」である。
たとえ実情が伴っていなくても見栄えさえ良ければ持て囃されるし、人はそれに憧れてしまうのだ。
今でこそ、合コンで「フリーター」と名乗るや否やトングを渡され、「お前は料理を取り分ける時以外動くな」という指令を下される世の中になってしまったが、フリーターという言葉が出たてのころは「フリーター」は新しくカッコいい働き方であり、若者はフリーターに憧れていたのだ。
これが「アルバイトで日銭を稼いで生計を立てている人」という言い方だったら、流行らなかったと思う。
やはり「フリーター」という「言い方」が当時はカッコよく感じられたのだ。
そしてメディアも、フリーターがいかに自由でクールな生き方であるかを報じた
その後、時代が変わったり、社会保険がなく収入が頭打ちで年を取るとキツイなど実情が明らかになり、フリーターはなってはいけないものになってしまったが、フリーターがカッコよく、みんながそれになろうとした時代が本当にあったのだ。
「フリーター」がそうなれるなら「ひきこもり」がなれないはずはないのである。
実際私は今「在宅勤務命令により家から一歩も出ずに社会保険完備の固定給」という、フリーターより遥かに恵まれた邪知暴虐の編集者たちと仕事をしているのだ。
やはり、全ては「言い方」そして「見せ方」なのだ。
まず「ひきこもり」という言い方が良くないので、とりあえず英語にしておけばカッコいい戦法で行こうとしても、ご存じの通り、ひきこもりは英語で言っても「HIKIKOMORI」であり「HENTAI」に続く日本発のの現象なのだ。
全方位から、ひきこもりをカッコよくすることを拒まれている気がするが、ここで負けるわけにはいかない。
以下、ひきこもりのことを部屋にいる人という意味で「ルーマー」と呼び、意識高い系ライフスタイルサイトのインタビューに答えているという体でひきこもりの地位を向上していきたいと思う。
ーー外に出なければという「強迫観念」を壊したい。「ルーマー」という生き方ーー
新型コロナウイルスの蔓延により、世界的に「外出自粛」、つまり「ひきこもり」が推奨されるという異常事態が起こった。
しかしこれは本当に「異常」で、コロナ期だけの一過性のものなのか。
コロナウィルスは脅威だが、「家から出ない」という新しい「生き方」を確立させる後押しにもなったと語る「ルーマー」と呼ばれる人たちがいることを、あなたはご存じだろうか?
「ルーマー」とは、家から出ず、部屋と冷蔵庫を往復しながら通信機器とauひかりを使って生活する「ライフスタイル」である。
ひとつの場所に留まりながら、仕事、買い物、娯楽、全てをこなす。
高度なインフラとオンライン環境、黒おキャット様ヤマトの頑張りにより可能になった新しい生活のカタチだ。
家、もはや部屋からすらも出ない、一見窮屈に見える生活を「自由」と語る。「ルーマー」として生きるカレー沢薫さんに話を聞いてみた。
ーー部屋から出なければ世界が変わるーー(見出し)
Q.家から出ないとどんなことが変わりますか
まず、昼夜、そして曜日、最終的に季節の「概念」がなくなります。
時間というものに対し「フラット」な感覚になれて、今までいろんなものに囚われていたのだと気付くことができました。
Q.「ルーマー」の良いところは
まず徹底的に「無駄」がない。
ルーマーをはじめてから「移動」というものが如何に無駄かわかりました。
移動中に読書をしたり、季節の移り変わりに気づける人ならいいかもしれませんが、ずっと己の足先だけを見て歩き、電車で種火周回しかしない人間にとっては無駄でしかありません。
私は田舎住まいなので、電車ではなく車ですが、車を運転する時間を種火周回に使えるようになりました。
Q.部屋から出ないと視野や世界が狭まりませんか
むしろ「視野を広げるためには海外に行ったり、人脈を広げなくては」と思い込んでいること自体、視野が狭いのでは。
本当に、もう海外に行かなければ新しいことを発見できない、というレベルまで国内、そして「室内」について知り尽くしているのでしょうか?
外国の初めて見る風景は感動的でしょうが、突然、頭(ず)が痛くなり、のたうち回った部屋で、一体いつ買ったのかすら不明な「野生のロキソニン」を発見する感動も、それに引けをとりません。
つまり「発見」や「感動」はどこにでもある。それを部屋で見つけられる「ルーマー」はあらゆる意味で「コスパ」の良い生き方と言えます。
Q.ルーマーはお勧めできる?
生き方は人それぞれなので何とも言えませんが(炎上避け)、今に限ってはお勧めできます。
何故なら「ルーマー」は非常に「安全」。
今は、夜の街の客引きが「安全なおっぱいあるよ」と声かけするぐらい「安全」が一番大事なんです。
ルーマーほど安全な生き方はありません。ウィルスはもちろん、ウィルスより性質の悪い「他人」がいませんから。
「安全」が最重要視される今、ルーマーは「最先端」の生き方と言えるでしょう。
Q.最後に一言
世界というのは外にあるものではない、自分が部屋の中に「創り出す」ものなのです。
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中