第97回

文字数 2,195文字

書くことがないので、「ひきこもり 朗報」という「祝 家全焼」と同じぐらい相反するワードで検索してみたところ、意外と興味深いひきこもりニュースを入手することができた。


よって今度はさらに偏差値を下げて、「明るいひきこもり」で検索してみた。


すると、「明るいひきこもりが一番たちが悪い」という記事がトップにでてきた。


まるで私がこのワードで検索するのを知っていて、棍棒を片手に待ち構えていたかのような記事だ。

インターネットまで敵に回ったら、もう生きる術がないので本当に勘弁してほしい。


この記事は個人ブログに掲載されたものだったが、なかなか面白い考察がされていた。


まず明るいひきこもりとは何かというと、この記事によれば、コンビニなど買い物には普通に行く、パッと見あからさまに病んでいるようには見えない、家族とも普通に会話する、何だったら飯も一緒に食うし、部屋もそんなに汚くないひきこもりのことを指すようだ。


「部屋が汚くない」以外は全て自分に当てはまっている。部屋が汚くて命びろいした。

しかしほとんどの項目には当てはまっているので、私は「うすら明るいひきこもり」という、ある意味暗いよりも不気味な存在であることがわかった。


ではなぜ明るいひきこもりが厄介かというと、明るいひきこもりは暗いひきこもりと違い「現状を憂いていない」からだという。


つまり、学校にも仕事にも行かず、家にひきこもって好きなことだけしている状態を最高だと思っており、その暮らしを変える気が一切ないので「何とかしなければならない」と頭を抱えたり手首を切ったりする暗いひきこもりよりも、タチが悪いということだ。


つまりここでいう「明るいひきこもり」とは、「開き直っているひきこもり」ということだろう。


確かに開き直っている人間ほどたちが悪いものはない。


最近社会問題になっている「無敵の人」も、言い換えれば「極限まで開き直った人」である。


失うものがなく、逮捕上等、もはや自分の命さえ惜しくないという人間の凶行を止めるのは至難の技である。


「最近日本の無敵人口が増えている」と言ったら、日本がサイヤ星になったみたいで頼もしいが、現実として無敵の人が増えると、それに比例して「特に理由のない暴力に襲われる人」も増えてしまうのだ。

もちろん、進撃の巨人のジャンが増えるという意味ではなく、通り魔的犯行とその被害者が増えるということだ。


そんな、どうせ死ぬなら誰かを道連れにしてやるという無敵の人に比べれば、外に出ず、一人で開き直っている明るいひきこもりなど、無害なものである。


そもそもひきこもりであることを憂いていない人間に、「ひきこもりは悪いことだからやめろ」と言うのもいかがなものだろうか。


しかし、明るいひきこもりは見ず知らずの人を道連れにすることは少ないが、親など身近な人間は道連れにしがちなところがある。


明るいひきこもりの最高な生活を支えているのは、おそらく家族である。つまり穀を潰す気満々で、それを悪いとも思っていないということだ。

さらに明るいひきこもりは、面倒を見てくれた家族がいなくなり、穀を潰し切ると無敵の人にメガ進化する場合がある。

元々明るいひきこもりには「開き直り力」という素質があるため、それをひきこもり生活でさらに高めた後、無敵の人として家の外に鮮烈デビューしてしまう可能性が十分にある。


よって、明るいひきこもりが無敵の人として窓辺から飛びたつ前に何とかしなければいけないのだが、何せ開き直っているため、助言も忠告も聞き入れず「親が死んだら生活保護受けるわ」という舐めた返答しか返ってこないため、周囲も早々に諦めてしまうのだ。


そういう意味で「明るいひきこもりほどたちが悪い」というのはある意味正しい。


だが、暗いひきこもりの方が望みがある、とも言い切れない。


私は条件としては明るいひきこもりなのだが、言動は極めて暗い。

なぜ最高の生活をしているはずなのに暗いか、というと元々性格が暗いのもあるが「暗い方が怒られない」というのもある。


前述の通り、明るいひきこもりはその態度を「舐めている」とみなされ、面倒を見ている家族が早々に激おこ、家からただきだしたり、引き出し屋を使ったりと強硬策に出る可能性がある。


逆に「自分でもこのままではまずいとわかっているが、どうしていいかわからない」というようなことを、全く聞き取れない声でいう暗いひきこもりに対してはなかなか親も強く言えないし、むしろ本人にどうにかしたいという意思があるように見えるせいで、長期間にわたる「様子見」をしてしまい、そのまま30年経過してしまったりするのだ。


明るいひきこもりはたちが悪いかもしれないが、たちの悪さを隠してないだけマシである。

それよりも暗いひきこもりの皮を被った明るいひきこもりに気をつけてほしい。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

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