「霊は生きている」 嶺里俊介

文字数 982文字

(*小説宝石2020年12月号掲載)
2020/10/23 13:59

回も崖っぷちから生まれた作品である。


 二年前の夏のこと。受賞後の新作が発表できないまま、もう三年目。このままでは物書きとして死ぬという、強烈な危機感と焦燥感があった。

 ふと短編を打診されていたことを思い出した。日程を確認したら、次に予定している長編の取材旅行まで十日ほどある。


 コーヒーを飲むため湯を沸かし、居間でノートを広げた。コミックを原作としたミステリードラマのDVDをBGM代わりに流しながら、いったん頭を空(から)にする。

 まず、自分を縛る。ネタはゼロから。取材旅行の前日までに仕上げて、担当者へ短編企画として送ること。


 そこへドラマの主人公の決め台詞(ぜりふ)が聞こえてきた。

 閃(ひらめ)いた。追い詰められると、どんなものでも創作の起爆剤になるらしい。一気に話が組み上がり、ノートにペンを走らせる。


 取材旅行の前日、無事に書き上げた短編(収録タイトル「霊能者の矜恃」)を送ったものの、頭を過(よぎ)るのは不安ばかり。


 旅行から帰宅した私に届いていた、短編企画の返事。追加の短編(「鳥は涙を流さない」)とほか数編のあらすじを付けて提出した連作短編企画は、最終話はオールキャストで難題に立ち向かう書下ろしで、という注文が出たものの、刊行化まで話が進んだ。生き返るとはまさにこのことだ。


 幽霊という概念は誰しも持っているが、十人十色である。だが既存の概念をそのまま使うつもりはない。読者に新鮮な刺激をもたらしてこそ物書きというもの。うおお。

 世界中で語られる心霊譚は枚挙にいとまが無い。現在でも新たなスタイルや概念を伴う話がつぎつぎに生まれ、楽しまれている。


 その理由は? そう、霊たちは生きているのだ。いつまでも、みんなの心の中に。

2020/10/23 13:59
2020/10/23 14:00

【あらすじ】

中村夫妻の幼い娘姉妹が車に撥ねられ、姉が死亡。生き残った妹が変なことを言い出した。「あたし、鏡に映らない。きっと吸血鬼になったんだ」霊を巡るさまざまなトラブル解決のため、人知れず命まで懸ける霊能者たちの活躍を描く「霊能ミステリー」登場!


【PROFILE】

みねさと・しゅんすけ

1964年東京都生まれ。学習院大学法学部卒業。2015年『星宿る虫』で第19回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。翌’16年デビュー。著書に『走馬灯症候群』『地棲魚』『地霊都市 東京第24特別区』。

2020/10/23 14:01

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