第61回メフィスト賞受賞者・真下みこと 初インタビュー / 聞き手・円堂都司昭

文字数 4,870文字

アイドルグループ「となりの☆SiSTERs」の青山柚莉愛が、動画生配信中に血を吐き倒れた。翌日、プロモーションのためのドッキリと明かしたことから、ファンの怒りを買い、炎上してしまう。そんなSNSの怖さを描いて第61回メフィスト賞を受賞したのが、真下みこと『#柚莉愛とかくれんぼ』だ。


■子供のころに家庭内連載を持っていた

――メフィスト賞の受賞、おめでとうございます。


真下 ありがとうございます。


――受賞されての感想をお聞かせください。


真下 まさか、という感じでした。ひとりで書いて、印刷して、枚数の確認をして、郵便局で「締め切りに間に合いますか?」と聞かれてしどろもどろになりながら応募した、あの日の自分に教えてあげたいです。


――お答えを聞くと、あまり投稿に慣れていない印象ですが、メフィスト賞に応募した本作は何作目ですか?


真下 長編では2作目です。


――小説を書こうと思ったのも最近なんですか?


真下 大学二年生の秋に短編を一つ書いたのが初めてです。小説の作法みたいなものがわからなかったので、プロットのような文章で応募してしまいました。書きたいものと書いているものがちょっと違うのかな、と思って、長編を1本書いて『このミステリーがすごい!』大賞(第17回)に応募しました(真下処凜名義「透明人間」)。そのときに「ミステリーとしては説得力が欠けているけれど、きちんとしたキャラクター造形とその描写が魅力的なので、こちらを生かしてまた挑んでほしい」とコメントを頂けたのが嬉しくて、もっと書きたいなと思いました。


――2作目の応募先にメフィスト賞を選んだのはなぜですか。


真下 『#柚莉愛とかくれんぼ』のあらすじが浮かんだ時、どのジャンルの小説なのかが自分でわからなかったんです。青春小説ともちょっと違うし、ミステリーでもなさそうだし……。それで「何でも来い」みたいな懐の深い賞はないかな、といろいろ調べていたら、メフィスト賞の募集要項にたどり着いたんです。「面白かったら、絶対本になります」という言葉を支えに、自分の何かが大きく変わるんじゃないか、とワクワクしながら書きました。子供のころから、物語を空想するのは好きだったので。


――最初に考えた物語はどんなものでしたか?


真下 小学校低学年のころに書いた絵本が最初の物語だったと思います。『はくさい兄ちゃんときゃべつ君』というタイトルで、野菜シリーズとして家庭内連載を持っていました。


――家族以外に自分が作ったものを見せたことは?


真下 絵本は家族にしか見せていませんでした。友だちに見せていたのはギャグ漫画です。豆本を作るのにハマっていた時期があって、じゃあ漫画も描いてみようって思ったんです。授業が始まる前に、その漫画を「授業中に読んでね」って言って友だちに渡すんです。その子が先生の話も聞かずに肩を震わせて笑っているのを後ろの席から確認するのが楽しみでした。


――そのころから本は好きだったんですか?


真下 小学校高学年のころに重松清さんの『きみの友だち』『ナイフ』を読んで、教科書に載っているお話とは何かが違うと思いました。特に『きみの友だち』は友だちと喧嘩してしまったときなどに何度も読み返した思い出の本です。中学生になって湊かなえさんの『告白』を読んで、本の中だったら人をどんな風に殺してもいいんだ、と思いました。それから東野圭吾さんや綾辻行人さんの作品も何作も読みました。言葉だけで読んだ人全員に同じ情景を思い浮かばせることができる人がこんなにいっぱいいるんだと驚きました。

■作中のアイドルの曲も制作


――そうしていよいよ自分で小説を書くようになるわけですね。『#柚莉愛とかくれんぼ』はどのくらいの期間でどんなスタイルで執筆をされたんですか?


真下 構想に1ヵ月、執筆に1ヵ月かかりました。執筆するときは、アルバイト終わりに当時好きだったタピオカのお店に行って、2千字書いたら終わり、みたいに、その日のノルマを決めていました。必需品はタピオカとパソコン、それから音楽です。


――音楽というと、アイドルの曲とかを聴いていたんですか?


真下 小説を書く前に、映画にするんだったらこの主題歌、というのを決めることにしているんです。『#柚莉愛とかくれんぼ』の場合は、宇多田ヒカルさんの『A.S.A.P.』を勝手に主題歌にしていました。細かく刻まれるハイハットの音が何とも言えない焦燥感を演出していて、考えているストーリーにぴったりだと思ったんです。


――それでは、執筆期間中はずっと『A.S.A.P.』を聴かれていたんですか?


真下 はい。でも歌詞に文章が引っ張られちゃうのが怖かったので、プレイヤーの音量を最小にして聴いてました。


――ハイハットという言葉も出てきましたけど、噂では真下さん、作詞作曲もされていて、『#柚莉愛とかくれんぼ』に出てくる「となりの☆SiSTERs」のデビュー曲は実際に作られているそうですね。


真下 音楽制作のほうは大学に入ってすぐパソコンを買ってやり始めたので、小説を書くより早かったんです。もともと中学生のころに、ネットに上がっているポエムに曲をつけるのが趣味でした。


――曲は応募時に添付されていたのですか。


編集 
メフィスト賞では、ごくたまに応募作のテーマ曲として自作の音楽CDを付けてこられる方がいらっしゃいます。小説の新人賞ですから曲が付いていたところで、選考に全く影響がないのですが。真下さんの場合、受賞が決まってからこういう曲ができましたとメールで送られてきました。思わぬ出来事に部内どころか社内でも驚きの声が出まして。『#柚莉愛とかくれんぼ』の発売にあたり、内容にあわせて炎上まとめ風のプロモーションサイトを作りましたが、真下さんの情熱に応えようと、この音源もPV風にしあげてネットにアップすることになりました。


真下 え、そうなんですか? 初耳です(笑)。公開されるとは伺っていましたけど、PVまで作っていただけるとは思いませんでした。ありがとうございます。


――作家と編集者が、アイドルと運営みたいになっています(笑)(※その後、PVに続き著者制作のリリックビデオも公開)。作中に登場する「となりの☆SiSTERs」や如月由香という架空のアイドルについては、リリースしたCDのリストまで本に掲載されています。


真下 曲のほとんどは作中に出てきませんが。


――如月由香の曲『中古品:綺麗な状態です』など、サイドストーリーが書けそうですね。


真下 その曲も一応、音源はあるんです。もともと誰に聴かせる予定でもない曲たちだったので、担当編集の方が「巻末にCDリストをつけませんか」と提案してくださったとき、すごく嬉しかったんです。


――真下さんがアイドルとしてデビューする日が来たりして(笑)。


真下 そんなそんな、恐れ多いです。「となりの☆SiSTERs」のデビュー曲も、最初は誰か歌ってくれないかな、と思って書いた曲なんです。アイドルをプロデュースするっていうのが、ずっと憧れだったので。


――どんなアイドルが好きだったんですか?


真下 小さいころはミニモニ。さんが好きで、中学生のころにAKB48さんにハマりました。その後、Perfumeさんを好きになって今は日向坂46さんが気になっています。なかでも一番好きなのは、東村芽依さんです。何をしてもかわいいんです。


――本当にアイドルがお好きなんですね。ちょっと小説の話から離れちゃったので(笑)、小説の話に戻ってもいいですか?


真下 すみません。つい熱くなっちゃって。


■ちょっとした違和感を掬い上げたい


――今回の作品はインターネットやSNSがメインテーマとも言えると思うのですが、ご自身はSNSとどういう風に関わってきましたか?


真下 中学生のころにLINEのサービスがスタートして、高校生のころにツイッターがはやり始めたんですけど、友だちから「ツイートにセンスがない」と言われたのがショックでやめちゃいました。今やっているのはLINEとインスタグラムだけです(※インタビュー後、ツイッターを再開)。


――炎上する様子がすごくリアルに描写されていましたが、身近で炎上が起きたことはありますか?


真下 大学の同級生で、特に話したことはない人のツイッターがちょっと炎上したと聞きました。スクリーンショットが友だちから回ってきたんです。就活の話で炎上していて、いわゆるまとめサイトにも小さく載ってました。身近なことなんだな、と怖くなったのを覚えています。


――真下さんは顔写真を公開されないそうですが、そういった出来事が影響しているんですか?


真下 特定の出来事が影響して写真公開が怖くなったというよりは、写真公開をしたくない理由である「インターネットの独特の空気感」が、そういう出来事を引き起こしたんだと思います。


――最近好きな作家を挙げてください。


真下 朝井リョウさん、綿矢りささんは前から好きで読んでいたのですが、大学が同じになって勝手に距離が詰まったような気持ちでいます。それから村田沙耶香さんは『コンビニ人間』『殺人出産』を読んで泣いてしまいました。


――えっ、泣いたんですか?


真下 はい。日々を「普通」に過ごしていくために、身の回りにあふれている小さな違和感に目を瞑らなきゃいけないじゃないですか。村田沙耶香さんの小説は「目を瞑らなくてもいいんだよ、それに気づけるのは大切なことなんだよ」って語りかけてくれる感じがして。ああ、私ずっと、目をぎゅっと瞑っていたんだな、と思ったら自然と涙が出てきました。


――そういう気持ちは『#柚莉愛とかくれんぼ』にも生かされていますか?


真下 ここに生かされてます、って部分を具体的に挙げられるわけじゃないですけど、見ないふりをしていた違和感と、真正面から向き合って書いたつもりです。


――今後はどのような作品を書かれる予定ですか?


真下 すでに3つくらいボツになっているんです。最近は初心に立ち返って自分が書いていて楽しめるものを作ろうと、架空のホストクラブの名刺とかを作っています。編集さんにはここで初めて言ったので、この話が採用されるかどうかはわかりませんが。


編集 過去の3作はすべてボツにしていますが、実はその中で気になっているものがありまして。女子高生が痴漢するという話です。心理描写がとても印象的なんです。


――女子高生が痴漢をするんですか!


真下 はい。復讐とまでは言わないですが、痴漢する女子高生がいてもいいんじゃないかと思ったんです。


――ぜひ読みたいですね。いずれ成立させてください。今後もアイドルやSNSなど時代に即したテーマについて書いていくんですか?


真下 私自身もよくわかりません。というのも、10年前にはスマホが普及していなかったみたいに、これから何が起きて何が「普通」になるのか、誰もわからないじゃないですか。ある日突然みんながSNSをやめるかもしれない。だからアイデア自体は時代とともにどんどん古くなっていくと思いますが、さっきお話ししたようなちょっとした違和感みたいなものはいつだってあるはずなので、そこを何とか掬い上げることができれば、と思います。


――作家としてだけでなく、大学生としての生活もあり、両立が大変そうですが。


真下 そうですね。ただ、うちの大学はわりと自由な感じなので、両方楽しんでやれたらいいなと思います。


――頼もしい。今後の活躍に期待しています。


(2020年1月21日、講談社にて)



PROFILE

真下みこと(ました・みこと)

1997年埼玉県生まれ。早稲田大学に在学中(2020年2月現在)。 2019年『#柚莉愛とかくれんぼ』で第61回メフィスト賞を受賞し、2020年デビュー。

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