第17回

文字数 2,732文字

東京を中心に、コロナ感染者が再び激増し、政府肝いりの”Go Toキャンペーン”も迷走している。

隙あらば、BBQやシャンパンタワーに興じたいという向きには、まだまだ厳しい時代が続きそうだ。


「ひきこもりこそ世界を救う」という千年に一度のパラダイムシフトが起きつつある今、どうすれば人類が生き抜けるのか、意外とためになるヒントが、そのライフスタイルからは見えてくる。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、困難な時代のサバイブ術!

会社にも学校にも行かず、無収入かつ、社会はもちろん家族とさえ関わろうとしない、真の意味での「ひきこもり」はやはり良いものではない。


本人は良くても、家族はあんまり良くないし「私が面倒見てあげるから、永遠にこの部屋から出ないでね」という家族がいるなら、それはそれで別の問題が発生している。


その場合支えていた家族が倒れた時点でひきこもりの生活も破綻し、そのまま共倒れになるのだが、ありがたいことに日本には生存権というのがあるので、今度は「国」こと我々の税金が支えることになる。


おそらく、自分がひきこもり、家族がひきこもり、もしくは家に知らない人がひきこもっている、という人以外はひきこもり問題を他人事と思っているだろう。あと最後のヤツは社会問題の枠を超えているので、早く通報してほしい。


つまり、ひきこもり問題解決に多額の税金が使われることになったら、結局国民全員のダメージになってしまうのだ。

ひきこもり支援なんかするな、というのは、自分が同じ立場になった時、その言葉がブーメランとなって己の延髄にブッ刺さるので、支援自体は必要である。

だが巨額の税金が使われないように、ひきこもりが出来るだけ生まれないようにすることも大事だ。


しかし、性質的に外の世界や社会、集団が向いていない人間というのが存在するのも事実であり、そういう人間を無理矢理外で働かせても、メンをヘラりやすく、結局ひきこもりになってしまうケースも多い。


そういうタイプは、外で働くよりひきこもりながら経済的に自立し、微弱でも社会と繋がりを持ち続けた方がまだマシなのではないか、ということである。


つまり、目指すは歌って踊れるアイドルのように「働いて納税するひきこもり」だ。


私も一応ひきこもりながら働き、その収入で生活したり納税したりしている一人である。

最近家計簿アプリを使っているのだが、その結果6月の支出の95%が「税金」ということが判明し、7月は80%が「税金」だった。

アプリが壊れているのか、俺が住んでいるのは日本じゃないのか、俺にだけ別の法律が適用されていないか、疑問はつきないが、みなさんもぜひこのぐらい国に惨殺されるひきこもりを目指して欲しい。


つまり、再三言っているように、ひきこもり最大の問題は経済であり、そこさえクリアできれば「ひきこもり」はただのライフスタイルの一つ、と言えなくはないのだ。

まず家から出ずに収入を得ることが、ひきこもりとして生きる第一歩である。


コロナウィルス感染拡大の影響により、リモートワークが浸透し、会社に所属しながら家から出ずに収入を得られるという、ひきこもりにとってはバスティーユ牢獄襲撃ぐらいの革命が起こった、はずだった。

しかし緊急事態宣言解除後、当たり前のように出社制に戻ったところも多いという。


人が見ていないとサボる、と思っているのかもしれないが、それは大きな間違いである。

どの会社にも一人ぐらい、パソコン画面の左上端にソリティアが常駐している奴がいるだろう。サボる奴は人が見ていようがいまいがサボるのだ。


昔に比べ、企業に所属しながら在宅、という働き方に光が見えてきたものの、まだまだ一般的とはいい難い。

やはり「フリーランス」になるのが、ひきこもりとして生きる一番の近道だ。


もちろん、フリーランスという働き方が軽々しくお勧めできるものではない、ということは百も承知である。


しかしこれはもう価値観の問題なのだ。

フリーランスの誰もが、「俺は独立した方が稼げる、自由な時間が持てる」というポジティブな動機でフリーランスをやっているとは思わないで欲しい。


フリーランスというのは、稼げる時は稼げるが収入ゼロということもある。とにかく不安定な働き方である。

また社会保障についても、会社員とは雲泥(うんどろ)の差で冷遇されている。


私もあまりの不安定さ、将来への不安で夜ガタガタ震えて眠れないことがあるが、そんな時は、会社員時代の所在のなさ、己の仕事のできなさ、周りにどれだけ迷惑をかけたかを思い出すようにしている。

そうすると、別の震えのおかげで震えが止まるのだ。


このように、どっちが良い働き方かではなく、「どっちの恐怖で震える方がマシか」という動機でフリーランスをやっている人間も、大勢いるのである。


よってまず、己の価値観をはっきりさせた方が良い。

社会で生きていくストレスよりも、不安定な収入による不安の方が勝ると思えば、会社員を続けた方が良いし、どれだけ不安定で貧乏だろうが、外に出て集団の中で仕事をするよりはマシと思えるならフリーランスをやった方が良い。


自分の価値観さえしっかり持っていれば、フリーランスになってどれだけ貧乏になったとしても、会社員時代より格段に幸せと感じることが出来るのだ。


己の価値観ではなく、「会社員として安定した収入を得るのが一番」という他人の価値観で決めると、「とてもつらいがこれが一番良いのだ」と自分を無理矢理納得させながら生きることになる。


収入、安定、自由、やりがい、仕事に求めるものは多々あるが、全て得られるということはほとんどない。

自分が一番何を優先させたいかを考えないで選んで、結局何も得られていないという場合も多いのだ。

自由が最優先であるはずの人間が収入で仕事を選んで、高収入なのに全く幸せではないというケースもある。


よって、進路に迷っていてやりたいことも特にないという人は、「何がしたいか」ではなく「仕事は全部地獄」と考えて、貧乏や人間関係など「どの地獄を一番避けたいか」を基準に選ぶことをお勧めする。

★次回は8月28日(金)更新です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

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