『フィッツジェラルドをめざした男』/デイヴィッド・ハンドラー
文字数 1,956文字

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで、素敵なイラストつきで紹介してくださいます。
第10回目の今回は、デイヴィッド・ハンドラーの『フィッツジェラルドを目指した男』です!
小説なのに魅力的な登場人物たちがありありと映像で浮かんできて、まるで映画を観ているような気持ちになれる小説がこちら。デイヴィッド・ハンドラーの『フィッツジェラルドをめざした男』(講談社文庫)です。
シリーズ3作目ですが、前作を知らずとも問題なく読めるキャラ紹介の巧みさ。
冒頭から洒落た文体に引き込まれます。小粋でテンポがよく、まさにニューヨークが舞台という感じ。風景から小物、ファッションの描写に至るまで、作者のこだわりが溢れています。
主人公は元ベストセラー作家だけれど、物書きとしての壁にぶつかり、現在はゴーストライターとして暮らすホーギーことスチュワート・ホーグ。
大成功した時期にトップ女優のメリリー・ナッシュと結婚したのも過去の栄光。メリリーとは離婚し、2人の愛犬はホーギーが引き取りました。その犬こそなくてはならない名脇役、バセットハウンドの女の子、ルルです。
ルルは、いつもホーギーと行動を共にしています。トレンチ・コートを羽織りボルサリーノをかぶったホーギーの横には、ホーギー手作りの黄色いレインコートを着用したルル。絵になりすぎです。
甘えん坊でキャットフードが大好物な彼女は、人間ばりに表情が豊かです。
「僕はルルを見た。ルルは僕を見た。」
これは犬と暮らす人にならわかってもらえる「犬あるある」。犬と顔を見合わせることって、よくあるんですよね。そのたび心通じ合っている気がして嬉しくなります。
そんなホーギーが、2作目を書けない苦しみのただなかにいる若き天才作家、キャメロン・ノイエスの回想記を依頼されます。
元売れっ子が現売れっ子のゴーストライターをやるのは複雑なもの。しかしホーギーは、見目麗しく才能に溢れながらも破天荒にしか生きられないノイエスを弟のように感じ、仕事を引き受けることに。
「まるで、大きくて、りこうで、金色の毛並みが美しい英国産ゴールデン・リトリーバーの子犬が、そのまま人間になって歩いているようだ。かわいい。顔をなめてくれないかなと、僕は半分本気で期待してしまったほどだ。」
ホーギーがノイエスを観察しているシーンですが、さすがの私も「ホーギー、いくら犬が好きだからって大丈夫?」とツッコんでしまいました。
ノイエスのベストセラー小説から様々なメディアミックスが展開され、それに伴い実在人物や番組名や企業名などが次々と出てくるのですが、より一層リアルさが増しますね。
そもそもタイトルにある「フィッツジェラルド」がアメリカに実在した有名小説家ですから、それこそニューヨークに行けば、ホーギーとルルに会えるんじゃないかと思えるほど。
キャラ小説として存分に楽しみながら、ホーギーが巻き込まれた殺人事件の解決も堪能してください。インタビュー形式の会話を挟みつつ、華やかに見える世界の光と影を丁寧に描いており、読み応え抜群。ミステリとしても優れています。
読み終えたらきっとすぐにルルに再会したくなるでしょう。ちなみにメリリーとは「別れても好きな人」的な関係が続いており、そちらにも注目です。名シリーズ「ホーギー&ルル」、読書の秋に是非どうぞ。

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
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