第13回

文字数 2,493文字

東京を中心に、コロナ感染者が再び激増し、政府肝いりの”Go Toキャンペーン”も迷走している。

隙あらば、BBQやシャンパンタワーに興じたいという向きには、まだまだ厳しい時代が続きそうだ。


「ひきこもりこそ世界を救う」という千年に一度のパラダイムシフトが起きつつある今、どうすれば人類が生き抜けるのか、意外とためになるヒントが、そのライフスタイルからは見えてくる。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、困難な時代のサバイブ術!

コロナウィルスの影響で、身を守るための「ひきこもり」が世界的に推奨されている状態が未だに続いているが、今後社会的な意味でも「ひきこもり」が増えるのではという危惧もされている。


何故なら、雨が降ればタケノコが生え、風が吹けば桶屋の二号の車がグレードアップするように、ひきこもりにも豊作の年というものがある。


ただ、ひきこもりは日照時間が少なく湿度が高い年によく生える、と言った気候の話ではなく、影響しているのは「景気」である


実際、今問題になっている中高年のひきこもりの四分の一という、圧倒的シェアを誇っている業界最大手が「就職氷河期世代」だそうだ。


つまり、就職が上手くいかずひきこもった者たちが、そのまま中高年になってしまったということである。


現在もコロナウィルスの影響で、店舗の閉店や企業の倒産が少なくなくなってきている。これから就職活動が難航することが予想され、就職できなかった者がひきこもってしまう恐れもある。


また就活世代だけではなく、コロナの影響で全国的に休校が相次いだため、学力や受験にも影響が出ている可能性が高く、精神的に不安定になっている子どもも増えているようで、学生のひきこもりも増えてしまうかもしれない。


このように、最近は中高年にシェアを奪われつつあるひきこもり業界であったが、この先数年は若年層の獲れ高がかなり期待できるため、再び若者が覇者になる可能性があるということだ。


もちろん笑いごとではなく、そうなったら早急な対応が必要だ。

非正規雇用のまま貧困に陥ったり、ひきこもりになってしまった就職氷河期世代を支援する方策が最近いろいろと出されているようだが、何せもうひきこもってから20年経っているのである。

成人式の日に「これ遅くなったけど」と、出産祝いのおむつケーキを渡すぐらいには遅い。


よって、コロナ世代のひきこもりが問題になった場合は、今度こそ早い対応が必要となってくる。


しかし、日本にひきこもりが多い理由は様々あるが、たとえ理由が「社会情勢」という個人ではどうしようもないものであっても、一度コースアウトした人間に対し厳しすぎるというのも原因のひとつである。


30年ひきこもっていた、ということについて、世間は「何故そんな長い間ひきこもることを許したのか」と言うが、まず、その世間こそがひきこもりが社会に復帰するのを許さなかったせいもあるのだ。


マリオカートですらコースアウトしても、ジュゲムがコースに戻してくれるにもかかわらず、日本は何とかコースに戻ろうとするマリオの上に、ドッスンが降ってくるという無理ゲーになっている。


広告デザインは無駄な余白があいている方がカッコいいと思っている割に、履歴書に存在する謎の空白期間は許さず「この間何してたの?」からの説教したうえに結局不採用という即死コンボで、やっとの思いで外に出たひきこもりを再び部屋送りにしてしまう面接官が未だに少なくないのだ。


このように、一度ひきこもった人間を社会が拒んでいるため、拒まれた方が家にいるしかなくなってしまったというのも長期ひきこもりの原因のひとつである。


ひきこもりを受け入れる場所も用意していないのに、ただ無理やり外に出させるというのは、誕生日会に呼んでおいて「お前の席ねえから」と言うのと同じであり、ますます外と人間が怖くなるに決まっている。


また、日本にひきこもりが多いのは、とにかく「他人に迷惑をかけるな」という教えが強いせいとも言える。


ひきこもる人というのは「自分が傷つきたくない」と思う、自己防衛本能が強い一方で「他人を傷つけたくない」という気持ちも強い場合が多い。

自分が傷つかないためなら触るものみな傷つける、ギザギザハートキャッチプリキュアタイプはむしろひきこもりにはならないという。


確かに、私も、会社をやめ、外部の人間と関わらなくなったことにより、人間関係に自分が悩まなくてすむという安堵が大きい。

しかし、社会との関わりが薄くなったことに対する危機感はあるし、寂しくないと言えばうそになるが「他人と関わらないことにより他人に迷惑をかけないで済む」という安心感の方がそれを遥かに凌駕しているのである。


このように、社会はひきこもりを問題だと思っているが、ひきこもり当人は自分が社会にいた方が大問題であり、諸悪の根源で、一生家の中にいるのが世の中のためと思っているという、圧倒的認識の差があったりするのだ。


よって外に出すよりまず「お前にそんな14年前のエリカ様みたいな力はねえ」という意識を変えさせることから始めなければいけない。


ひきこもりを治すというのは「外に出す」ことではない。

何故ひきこもったか原因を明らかにし、そこを解決した上で外に出すことであり、出すからには居場所も用意しておかなければいけないのだ。


発生してしまったひきこもりをなくすのも大事だが、この国が「ひきこもりが育ちづらい土壌」にならない限りは、いくらひきこもりを刈り取っても次から次へと生えてくるのである。

★次回は7月31日(金)公開です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

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