『愛されなくても別に』/岡本歌織(next door design)
文字数 2,370文字
そう-てい【装丁・装釘・装幀】
書物を綴じて表紙などをつけること。
また、製本の仕上装飾すなわち表紙・見返し・扉・カバーなどの体裁から製本材料の選択までを含めて、書物の形式面の調和美をつくり上げる技術。
また、その意匠。装本。
『広辞苑 第七版』(岩波書店)より
2年前に武田綾乃さんが書かれた『青い春を数えて』という作品の装丁を担当させていただき、今回『愛されなくても別に』でもまたお声がけをいただけてとても光栄でした。
今回の作品は、前回の爽やかな青春小説とは違って、大学生の貧困や毒親など、社会に対する様々な閉塞感にたちむかっていく女子大生たちの物語です。
二人の女の子の力強くも脆い心情がリアルに丁寧に描かれていてグイグイ引き込まれ、辛い現実にいる二人を心から応援したくなるようなお話でした。
「武田さんの新境地ともいえるような作品なので、新しい顔になるような本にしたい」という編集者さんの希望により、イラストレーターさんを色々提案しながら相談をした中で、現代のリアルな女の子を、力強く、かっこよく描いていただける雪下まゆさんに装画を描いていただくことになりました。
ちょうどコロナ禍で直接打ち合わせをするのは難しかったため、3人でzoomで話をすることになりました。
打ち合わせのときのアイデアの叩き台になればと絵コンテラフを作成し、前もって3人で共有しておきました。
(言葉で説明するよりもイメージがすぐに伝わるのでこんな拙い絵でも無いよりはマシだろうか…となるべく用意するようにしています)
2人の住む部屋はこの作品を象徴的に表すことができそうなので、Aが良いけれど、雪下さんの描く人の顔はとても強さがあるので、それを前面に出したBも捨てがたく、かなり悩んだ結果、Aの絵柄で、カメラ目線でこちらを見ているような絵にしていただくことになりました。
そしてイラストラフが届きました。
出しっぱなしのこたつ、大学生である2人のテキストやパソコン、バイトから帰ってご飯を食べ終えたお皿、携帯電話、芳香剤、写真…小説の中に出てくる二人の部屋がとてもリアルに、そのまま現実に現れたようで、すごく素敵だと思いました。
タイトルや帯位置との兼ね合いで、女の子の位置を調整していただいたり、表1に差し色のような色味がプラスできればと、黄色いパーカーを描き足していただいたり、若干の調整をお願いしてそのまま仕上げていただきました。
そしてデザインと紙や加工を考える段階になり、今回も少しだけ資材にお金をかけてもOKと言われていたので、帯の紙に半透明のトレーシングペーパーのような紙を使うのはどうかと提案しました。
でも、トレーシングペーパーとしてよく使用されている「クラシコトレーシング」という紙だと、カバーの絵柄が透けすぎて文字が読みづらくなってしまうため、クラシコよりも透明度が少ない「ドリープF」という紙にすることで、ほどほどに透けつつ、文字も見えて良いのではないかと思いました。
念のため「OKブリザード」という紙と、2種類色校をとって比べてみました。
すると、「ドリープF」に関しては、これでもやはり下が透けている分少し暗く感じる、コピーが目に入りづらい、そして半透明紙なのでインキの乾きに通常よりも1日以上時間がかかるという問題がでてきました。
「OKブリザード」も悪くないけれど、若干乾きが良くないのと、耐久性も心配なので、これなら普通の白い紙にしてしまっても良いのではないかという、デザイナーからすると無念な方向に…。
そこで、書店でたくさんの本の紙を見ながら悩んだ挙句、「タッセルGA」という細かいエンボスが入っている紙にして、カバーのイラストのハイライトの部分だけ白くとばしながら、帯の地色の黄色にのせて、擬似的に透けているような雰囲気を出しました。
左端から順番に「ドリープF」「OKブリザード」「タッセルGA」です。
たしかに「タッセルGA」がパッキリしていて黄色が明るく目立つし、コピーも目に入るので良いものの、個人的には「ドリープF」も悪くないのではないか…という心残りもありながら最終的には「タッセルGA」で印刷することに決定しました。
また、表紙に関しても、当初は2人がコンビニでアルバイトをしていることから、偽のバーコードと数字をいれるようなデザインを提案していました。
(写真左)
この小さい数字にも意味があり、読んだ人だけわかるような仕掛けを作っていたのですが、誤読の可能性があるということでバーコード風のデザインはNGになってしまい、写真右側の丸いドット模様の瓶のアイコンに変更しました。
(こちらも、読んだ人はわかる象徴的なアイテムです)
この本を読み終えた後に、あらためて装丁を見返していただけたら嬉しいです。
岡本歌織 (next door design)
東京都生まれ。広告制作会社勤務を経て、株式会社bookwallでブックデザインを学び、
2015年からnext door designに所属。
文芸書を中心に、児童書、雑誌、コミックなど様々なデザインをさせていただいています。
next door design : http://n-d-d.jp/
Twitter : https://twitter.com/nextdoor_d?lang=ja