一気読み必至、「Cocoon 」シリーズの魅力／内田 剛

『Cocoon』シリーズ読みどころ　　text by 内田 剛

　『Cocoon』シリーズの興奮をまだ体験していない方がいればそれは幸いだ。人生これからの楽しみは多いほど良い。読み応えはまるで行列のできるテーマパークのようだ。抜群の面白さを一人でも多くの読者とわかち合いたい。かくいう自分もこの物語の凄みに気づかされたのは、恥ずかしながらごく最近のことだ。個人的なことで大変恐縮であるが2020年まで約30年にわたって書店に勤務しており、文芸書と文庫を担当していたので著者「夏原エヰジ」の名前と『Cocoon』というタイトル、さらに煌びやかな表紙はよく覚えている。1日1冊以上小説を読み、時代ものにはそれほど抵抗はないはずなのになぜその時に読まなかったのか。理由を考えると、ジャケットのイメージから①キャラクターもの②ファンタジーもの③シリーズものであることが伝わってきて、基本的に軽い印象のある①〜③の要素を苦手としていたためまさに読まず嫌いの状態であった。

　何気なく手にしたのが2022年5月刊の『Cocoon 京都・不死篇―蠢―』だった。江戸から京都へと舞台を移した人気シリーズの新章開幕ということで、これなら負担なく読めるかもしれないと気軽に手にしたところ、想像を遥かに凌駕する凄まじい修羅場の連続に驚嘆。江戸〈吉原〉との違いを京都〈島原〉で感じる元花魁の瑠璃に立ちはだかる異形たちの脅威。大地は鳴動すれども生き鬼を救済する信念に揺るぎなし。読む前に抱いていた軽いイメージは一瞬にして振り払われた。スタートに確固たる背骨があり、また血も涙もある仰天の展開に息を呑みっぱなしで自分史上最速の一気読み体験ができたのである。

　その勢いで手にしたのがシリーズの番外編『連理の宝　Cocoon外伝』。本編では明かされなかったエピソードを集めた短編集だ。読む順番を間違っているという批判も覚悟だが、これまた心憎いばかりに物語が転がりグイグイと引きこまれた。つまりはこのシリーズ、どこから味わっても楽しめるのである。敵と味方、善と悪、光と闇、希望と絶望、静謐と喧騒、生と死、愛と憎しみ、呪いと祈り、情と理・・・あらゆる要素が縦横無尽に入り混じり、人も鬼も妖も関係なし。信楽焼の付喪神・お恋、人あたりの良い兄貴分・閑馬、最大の敵にして愛すべき義兄・惣之丞。美貌を誇る花魁・瑠璃はもちろんのこと脇を固める登場人物たちがおしなべて魅力的。そしてさまざまな奇縁によって結ばれた絆がなんとも愛おしい。人肌の温もり溢れて涙を誘われるシリーズの醍醐味を再認識できる一冊であった。

　第二章と外伝を読んだあとにいよいよ本丸である本編に突入。これも苦手な電子版にチャレンジしてみたが驚くほどスムーズに読みすすめることができた。第一作目『Cocoon―修羅の目覚めー』を皮切りに『Cocoon2―蠱惑の焔ー』『Cocoon3―幽世の祈りー』『Cocoon4―宿縁の大樹ー』『Cocoon5―瑠璃の浄土ー』の怒涛の五作品。問答無用の規格外の面白さは読んでもらうしかない。瑠璃のもうひとつの顔は鬼たちを成敗する組織の頭領であり仲間たちと力をあわせて最強の鬼、ボスキャラである平将門に立ち向かうのだ。このストーリーの構成はまさしくロールプレインクゲームの世界。読者もチームの一員となって同じスリルを堪能できる構造となっている。繰り広げられる過酷にして壮絶な物語世界。兎にも角にも手に汗握る躍動感がたまらない。気がつけば映像が見え、音楽が奏でられているようなシアター感覚に浸っていた。まさにエンターテイメントの魅力を凝縮させたような贅沢な味わい。一度読み始めたら手放すことは不可能だ。いい意味で中毒性があり落ちるほど高揚感が高まる蟻地獄のような作品である。

　そもそもこの作品は2017年に第13回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し極めて異例のいきなりシリーズ化が決定した超話題作なのだから面白くないわけがないのだ。確かな評価を受け伸び代も無限大。これほどこの先楽しみな作家・作品は稀であろう。これさえ読めばきっと人生はもっと色づくはずだ。この8月には新作『Cocoon 京都・不死篇―疼―』が待っている。江戸から京都へ、さらには全国へと夢は広がる。ぜひ大いに喧伝していただき末長いシリーズ化を期待しよう。

『Cocoon　京都・不死篇２－疼－』カバーを一足先に特別公開！