失敗した革命 ~革命こじらせると、すごく不幸~

文字数 2,881文字

「革命」という言葉は、儒教の五経書の一つである「易経」革卦の「湯武命を革 (あらた) め、天に順 (したが) いて人に応ず」が語源です。


中国の王朝が変わることを表現しており、天命が変わり新たな天子が統治者の役割を担うことを意味します。歴史用語では「易姓革命」と言います。


ところが明治時代になって、英語の「Revolution」を日本語訳するときに、そもそも東洋では「被支配者が、支配者が統治する社会をひっくり返す」という意味の言葉がなかったため、古典から引用し革命という言葉をそれにあてました。


中国では、武装した地方勢力や農民が王朝を倒して皇帝にとってかわる「易姓革命」は起きたものの、「天命を受けた天子が地上の統治を担う」という統治原理は、古代から清の時代まで続きました。その伝統の統治原理を倒し中華民国を建設した孫文の辛亥革命は、西洋で考えるところの革命です。


一方、日本の幕末は武力によって江戸幕府が倒されたのではなく、大政奉還によって政権が天皇に戻されたたもののため、革命ではありません


なにが革命でなにが革命でないかの区分は実は非常に難しい問題で、学者によっても見解が分かれています。

「マイ・レボリューション」じゃダメみたい。 革命むずい!

世界史の教科書に一番初めに出てくる革命は、1642年の「ピューリタン革命(清教徒革命)」です。

後に続く名誉革命と総称し「イギリス革命」と呼ばれます。有産階級がスチュアート朝の絶対王政を倒し、立憲君主制を勝ち取った革命です。


支配制度をひっくり返したという定義で言うと、1568年から1648年にかけて起こった「オランダ独立戦争」も革命の一つと言えます。ハプスブルク家の支配下で経済的圧制とカトリックによるプロテスタント迫害を受けていたネーデルラントは、貴族を中心に団結し北部ネーデルラント7州が「ネーデルラント連邦共和国」として独立しました。


結果だけ見ると明らかに革命ですが、これは八十年戦争と三十年戦争という国際戦争の中の一要素であり、また宗教戦争や経済戦争といったさまざまな要因を含むため「オランダ独立革命」と言う単独の出来事に切り分けられないという理由があります。なかなか難しいです


アメリカ合衆国がイギリスから独立を勝ち取った出来事は、日本では「アメリカ独立戦争」と言いますが、アメリカでは「革命戦争(Revolutionaly War)」と言われています。


有産階級のみならず市民、女性、先住民まで多くの階層の人々を巻き込んだということも価値があるのですが、独立宣言の際に公布された「独立宣言書」が後世の時代に大きな影響を与えた画期的なものでした。


「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」という文言は、後のフランス革命のみならず、後世に大国の圧政下にある人々が主権国家を宣言するにあたって大きな思想的な大義となりました。


確かに革命の名にふさわしいのですが、イギリス流の「アメリカ独立戦争」という名称が国際的には通じます。これもまたなかなか難しいです

フランス革命はフランス人を幸福にしたか?

革命と聞くとフランス革命を思い浮かべる人も多いと思います。


フランス革命のもっとも大きな遺産は、アメリカ独立戦争の人権宣言の大きな影響を受けながら、民衆が自ら組織を作って意見を発し、世論を作って、場合によっては実力行使で現政権を倒すという政治文化が作られたことでした。延長線上に、イタリアの統一、ドイツの統一、辛亥革命、ロシア革命などの諸革命が続くわけです。


しかし、当のフランスにとってフランス革命が「成功だったか、失敗だったか」は長年議論が続いてきます。『フランス革命 (ヨーロッパ史入門)』T.C.W.ブラニング/著 天野 知恵子/訳(岩波書店)を読むと、その歴史的意義をめぐる議論の歴史がよく分かります。


伝統的な解釈では、アンシャンレジーム(旧体制)の矛盾に限界が生じ、下部構造(ブルジョワ)が上位構造(王族貴族)を取り崩す階級闘争が起こり、封建制から資本主義への移行を果たしたのがフランス革命の結果とされます。


一方で、アルフレッド・コバンを筆頭とするレビジョニストのグループは、フランス革命は「さまざまな階級が入り混じった党派が繰り広げた飽くなき権力闘争」であり、革命はむしろ経済力の後退をもたらしたとします。


実際のところ、フランス革命はテルミドールのクーデターで反動化した後、ナポレオンのクーデターが起きて強制終了させられ、革命の輸出を目指した飽くなき戦争に突入しました。


革命の最中にフランスは海外植民地をいくつも失ったので確かに人的・経済的にはマイナス面のほうが大きかったと思われます。革命勃発のきっかけの一つが財政難だったことを考えると皮肉であります。 

革命はインターセプトされがち。それでも「レボリューション!」と叫びたい。

当初の目的を達成できなかった革命は歴史上多くあります。


例えばフィリピンでは、スペイン植民地政府の圧制に苦しんだ都市の労働者層が1892年に蜂起を起こすも、エミリオ・アギナルドを始めとする資金力のある地方の有産階級が革命を乗っ取り、植民地政府と妥協して革命を途中で停止してしまいました。


その後、米西戦争に乗じて再び独立運動が盛んになるも、アメリカがフィリピンの植民地化を画策すると、これまた有産階級たちは妥協し、自分たちの資産や地位の保証の代わりにアメリカ支配を受け入れたのでした。


真の意味で革命が成就できなかったフィリピンでは、未だに一部の有産階級が富の大半を牛耳るという社会構造から抜け出せていません。


2011年に始まった「アラブの春」では、チュニジア、アルジェリア、バーレーン、オマーンなど中東各地に革命が飛び火しました。中でも大きなうねりとなったのがエジプトで、インターネットを駆使したピープルズパワーによって約30年間政権を担ったムバラク政権が倒れました。


しかしその後、革命の主体となった若者の政治グループは糾合できず、選挙が行われて勝利したのはムスリム同胞団系の政党でした。エジプトのイスラム国家化を懸念する国軍が2013年にクーデターを実行し、エジプトは再びムバラク時代と同じく軍人政権となってしまいました。


その革命は「良かったのか・悪かったのか」「成功だったのか・失敗だったのか」、その問いに真に答えられるのは中国の「天」のような、人でない存在なのかもしれません。

『フランス革命 (ヨーロッパ史入門)』T.C.W.ブラニング/著 天野 知恵子/訳(岩波書店)

尾登雄平(おと・ゆうへい)

1984年福岡県生まれ。世界史ブロガー、ライター。

世界史専門ブログ「歴ログ」にて、古代から現代までのあらゆるジャンルと国のおもしろい歴史を収集。

著書『あなたの教養レベルを上げる驚きの世界史』(KADOKAWA)


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