信長様は甘えるのがお好き。/神楽坂淳
文字数 1,684文字

『うちの旦那が甘ちゃんで』シリーズで絶好調の神楽坂淳氏が、斉藤道三の娘で織田信長に嫁いだ帰蝶を主人公に描く新シリーズがスタート! 新感覚の恋愛歴史小説シリーズによせる思いを、語っていただきます!
織田信長は家庭の中ではどんな人物だったのだろう。案外甘えん坊だったのではないかと思う。
そして同時に女性的な側面を持っていたのではないか。
そんなことを考えていて、同時に、
信長と暮らすというのはどういう気持ちなのだろう、と考えた。
モーツァルトに嫁いだコンスタンツェは大変な苦労をしたらしい。天才は性格が破綻していることが多いから、信長の嫁は苦労したのかもしれない。
しかし何と言っても斎藤道三の娘である。案外信長をそそのかして自分が天下を狙ったのかもしれない。と考えたところからこの物語は始まった。
織田信長というのは、鉄砲隊に女性を多く使ったと言われている。
織田信長が先進的だったのは、戦闘員として女性を使ったことと、兵站線の徹底した確保である。
特に道に関しては神経質で、道路の幅もきちんと決め、両側に街路樹を植えて現代の道路に近いものを確立した。
インフラの整備によって、商業の活性化もできる。
そのために工兵部隊を多く用いたのも特徴的だった。そしてその中で頭角を現してきたのが木下藤吉郎秀吉である。
信長は、戦場で快適に過ごせないことを嫌ったらしい。
戦場というのはどうやっても快適に過ごすことはできない。その中にあってなるべく快適に過ごしたいというのは武将としては珍しい。
戦場において、おそらくは短期工法によく小屋を建築して野宿を避けたのではないかと思われる。これは第二次世界大戦の日本軍よりも進んでいる。
そして特徴的なのは、鉄砲隊に対しての女性の起用だ。
この時代、築城などには女性も参加していた。条件も同じ。食事の量が男性よりもやや少ないというくらいであった。
しかし、戦闘員に女性を起用していくのは珍しい。
刀や槍では体格的には不利だからだ。しかし、鉄砲なら体格差は関係ない。メンタルが強ければいいからである。
自分の国を守るという心においては男も女もない。
そういう観点から、女性部隊を起用したのも近代的である。
大坂夏の陣、冬の陣において、大坂方の鉄砲部隊の主力は女性であった。信長を見つめていた秀吉は、信長の戦術思想は色濃く受け継いでいたのだろう。
信長は合理的で、そのうえ繊細だった。
信長は、あるとき桃の木を植えて、部下に褒美として渡していた。そのうち、部下が桃のために働くようになり、桃をもらった、もらわないで争うようになり、結局桃を切り倒してしまった。
部下に対しての公平性には重きを置いていたようだ。
略奪や暴行を厳禁したのも先進的であった。当時は略奪や暴行が部下への褒美と考えられていたからだ。残虐という印象を持たれるわりには平和的であった。
そしてその陰に、女性がいたとしてもなんとなく合点がいくのだ。
というよりも女の膝枕の上で作戦を立てたり、政治を考えていたのではないか。
秀吉と違って、信長は極端な女色好みではない。もちろん男は誰でも色好みというわけではないが、信長の脇にいつも帰蝶がいて、そのおかげで信長は政治に集中できた、ということなら楽しい。
信長と帰蝶という一組の夫婦が天下を平定する物語が書いてみたいと思って今回この物語を書いた。
といっても形になった物語ではなく、侍女の独り言のような小説なので、気楽に読んでもらえると幸いである。
適当に見えるかもしれないが案外しっかり歴史的なことは書いたつもりだ。
神楽坂 淳(かぐらざか・あつし)
1966年広島県生まれ。作家であり漫画原作者。多くの文献に当たって時代考証を重ね、豊富な情報を盛り込んだ作風を持ち味にしている。小説には夫婦同心の捕り物で人気を博した『うちの旦那が甘ちゃんで』ほか『大正野球娘。』『三国志1~5』『金四郎の妻ですが』『捕り物に姉が口を出してきます』 などがある。