第20回/深夜の職質バトル

文字数 2,326文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


第1回はこちらから

 深夜の孤独をごまかす方法として、深夜散歩があるわけですが、都内の夜はたいていパトカーや見回りの警官が存在する。彼らが横を通り過ぎるたび、なにも悪いことをしていないのにドキドキしますね。若い頃は、睡眠薬の効果で脳がぐらんぐらんしている状態で散歩していたため、いま警官に捕まったら危険薬物を疑われちゃうなーと勘ぐったりもしていた。が、意外にも怪しい状態の時は声をかけられないものです。あるラッパーの集団内で、あえてラリった状態で交番に道を聞きに行くゲームが流行っていたそう。堂々としていると案外わからないものなんですね。


 それはともかく、逆に孤独だからこそ散歩しているのだから、べつに職務質問で捕まったっていいわけで、むしろ話し相手になってくれるなら、じゃんじゃん捕まえてくれていい。どうせ何もでてこないのだし、「お互い深夜に大変ですね〜」なんてコミュニケーションをすれば、それだけでちょっと暖かくなるのに。警官と雑談する行為、「街に認められた」って感覚がありませんか?


 しかし、中野に引っ越して以来、わりと深夜に歩き回っているというのに、一度も職質されていない。これはちょっと寂しい。ぱっと見て「怪しくなさそう」と認識されているのは悪いことじゃないけど。10分くらい、知らない誰かと足を止めて世間話をする時間があってもいいじゃないか。


 秋葉原に住んでいた時は、もっと職質されていました。一ヶ月に一度は声掛けされていたんじゃないかな。地域差ですね。秋葉原、まーーー変人が多い街ですから、警官もぐいぐい職質するんですよ。特にリュック背負ったオタクは狙われまくり。点数稼ぎにちょうどいいんでしょうね。オタク、見た目が不審だと声掛けし易いだろうし、わりとリュックからは怪しいものでてきますから。秋葉原回っていたら、昼でも職質されているオタクたくさん見かけることができる。「カバンの中身見せてね」と言われて、恥ずかしそうにエロ同人誌を見せたりしている。まるでイジメっ子が教室のオタクを見せしめにする嫌がらせだ。


 さて、一度だけ忘れられない職質がありました。


 あれは僕が秋葉原の自宅の鍵を失くした際、どうしようもなくて深夜のマンション前でうずくまっていた時の話です。


 まあマンションの前で若者が長時間座って呆然としているのですから、夜間パトロール中のパトカーの目に留まるわけですよ。「あっ、あのパトカーこっちくるな」ってわかる。そうなると、無意味に逃げたくなってしまう。追ってくるなら逃げてみよう。どうせ捕まったとて何もでてくるものはないんだから。むしろ、じっくり身体検査されることで鍵が見つかるかもしれない。


 で、逃げられるだけ逃げてみたら、これが意外と上手くいった。狭い路地を駆使して走り回っていると、小回りの効かないパトカーとの距離がぐんぐん離れる。「いま自分がガチ犯罪者だとしたら撒くのに成功しているのか……」と考えると感慨深い。とはいえ、本気で逃げ回り続けて大事になっても仕方ないので、ある程度のタイミングでわざと捕まります。鍵を失くしてテンパっていましたから、話し相手が欲しかったこともある。


 パトカーからは二人警官がでてきましたが、僕が逃走したせいで応援を要請していたらしく、自転車なりで別の警官たちも駆けつけてきた。合計5人の警官が来たかな? 「やれやれ……今回はキミたちの勝ちだね」といった態度で自ら近づく。警官たちは僕が逃げ回ったことに怒り心頭である。


「どうして逃げ出したんだ!!!」


「いや、追ってきたから逃げようかなって……」


「そんなことがあるか!!!」


 そんなことがあるのだ。かまってほしくて逃げた。追われると去ってしまう複雑な乙女心を気づいて!!! くれるわけでもなく、5人に囲まれ駐車場のど真ん中で身体検査開始。もちろん何も出てこないし、なんなら鍵だって出てこない。「本当に意味もなく逃げたんですか?」と警官たちも呆れ気味。ごめんなさい。


 「鍵を失くして途方に暮れていたので家の前に座り込んでいた」と事情を説明。「じゃあキミは今晩どうするの?」と訊かれたので、「助けてくれませんか〜?」と切り出してみる。一晩、交番や留置所に隔離される体験がしてみたい。ドキドキ……。


 が、当然断られました。「悪いけど、警察はそういう対処はできないから……」と引き気味になり、今度は相手が逃げていくなら追ってしまう。「なら僕は、このまま寒い冬の深夜に路上で凍えていろってことですか!?」と攻めてみると、「だって、ねぇ……」と露骨にもごもごし始める。次第に「事件じゃないならこれで」と警官たちが一人ずつ逃げ出し、パトカーから来た二人も「ごめんね」と無理やり車へと戻りだす。なんて薄情な人たちなんだ! 逃げれば追い、追えば逃げる。融通がきかない権力の犬め! と睨みつけるも、どうしようもならない。


 結局、朝までマンション前にしゃがみ込み、どうせならもっと話し相手になってくれよぉ……と独りいじける夜となりました。そんな一夜の思い出です。

【METALROBOT魂 ウーンドウォート】


ガンダムの中でも特に女性らしいシルエットが特徴のマイナー機体。マイナーなので一般販売でなくプレバン枠。もろにセーラー服なノーベルガンダムとちがって、こちらは「言われてみると女性っぽい」塩梅。この絶妙なかわいらしさが一部のオタクたちを熱狂させる。

来週も月曜深夜に更新予定です。それでは、おやすみなさい。

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