ミステリー五冠に 輝いた傑作 /青戸しの
文字数 1,481文字

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』は、2020年の本屋大賞にノミネートされ、「このミステリーがすごい!」といった主要ミステリーランキング1位のほか、ミステリー五冠にも輝いた名実ともに傑作である。なお本作の続編が、昨年発売した「小説現代」の1月号に掲載されていたことも記憶に新しい。
推理作家である香月史郎は翡翠色の瞳をした美しい女性、城塚翡翠と出会う。彼女は霊媒師で死者の言葉を伝えることができるが、勿論そこに証拠能力はない。そのため、香月は霊視で得た情報と論理の力を組み合わせ、事件を解決へと導いていくというのが簡単なあらすじだ。
読む前は、霊視や降霊などといったチート技、犯人からすればたまったもんじゃないだろう、そもそも霊なんてものが絡んでくるのであればジャンル的にはホラーなのでは? という印象だった。
読了後の感情を言い表すのはとても難しいが、強いて言うなら恥ずかしい、だった。本書は紛れもなく本格ミステリー作品で、その事実を疑ってかかったこと、そして犯人を突き止めることこそがミステリーの醍醐味だと心のどこかで決めつけていたことを、この上なく恥じた。作中にある「人間は自ら謎を解いたり、秘密を見つけたりすると、愚かにもそこにそれ以上の謎や秘密があるとは考えないものなのです」という言葉が身に染みて痛かった。
「全てが伏線」と帯に書かれた言葉に噓偽りなく、「最強、最驚、最叫」というあまりにも抽象的なコピーも、先に読了していた友人からの感想が「城塚翡翠がとにかく可愛い、あとの話は読んでからだ」の一点張りだったことにも納得がいく。ネットのレビューを見れば、皆が口を揃えて翡翠ちゃんが可愛いとコメントしている。これ程までに繊細で計算し尽くされた作品について多くを語るのは無粋だと感じたのだろう。他に書けることがないというのもあるだろうが、その点を差し引いても彼女はとても魅力的なキャラクターだ。息を吞むほど美しい、と形容されるほどの美貌とあの愛らしい性格に魅了された読者が大勢いるはずだ。無論私もその一人である。
一流のマジシャンが演じる奇術は言動の全てに意味があり、無駄がない。我々はその全貌を目撃することは出来ても、完璧に説明することはほとんど不可能なのと同義で、本書の真実を知りたければ手に取って読むしかないのだ。
全てが伏線。著者、相沢沙呼は優れたミステリー作家であると同時に一流の奇術家なのだと私は思う。
青戸しの(あおと・しの)
モデルや女優を中心に多方面で活躍中。MVに出演し、ヒロイン役を務めるなど活動の幅を広げている。
青戸しの インスタグラム/ Twitter (@aotoshino_02)
