探偵小説研究家・山前譲氏がおすすめ! GWが楽しくなるミステリー3作!
文字数 1,905文字

ゴールデンウイークが始まったものの、今年は海外旅行ができるわけでもなく、近場に遊びに行くことさえ控えたい状況ですね。
家でのんびりお籠もりする人も多いと思いますが、のんびりといっても、ただ漫然と時を過ごすのでは少々もったいない。
ここはひとつ、腰を据えてミステリー小説一気読みというのはいかがでしょう。
「ジャーロ」で書評を連載している山前譲氏が、今年の1月号と3月号でとりあげた合計18冊のなかから、“これさえ読めば間違いなく楽しく過ごせる”3冊を厳選しました。
まずはコーヒーでも淹れて、ラク~な態勢でページを開いてください。
ミステリーとマジックの親密な関係をあらためて堪能できるのは東野圭吾『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』(光文社)である。
東京から新幹線で約1時間、さらに私鉄の特急に乗り換えて1時間近くという小さな町で、独り暮らしの元中学教師の死体が発見された。連絡を受けて東京から駆け付けたのは、結婚間近の娘の神尾真世である。
すでに父の英一は解剖に付されていた。そして、足の踏み場もないほど父の書斎の床に物が散らばっているのを見て、呆然とするばかりだった。そこに顔を出したのが父の弟の武史だ。
かつてアメリカでマジシャンとして活躍し、今は恵比寿でバーを経営している武史の癖のある言動は、最初は戸惑うもののしだいに快感となっていく。真世の父はやはり何者かに殺されたのだ。警察は頼りにならないとばかりに、武史は探偵行に乗り出す。
コロナ禍がさまざまな形で町を混乱させているなか、その華麗なテクニックで真世の同窓生たちの絡み合いを、そして警察捜査の進展を探り出す。真世は呆れているが、読者も同じだろう。しかしそれはもちろんはったりではない。論理が真相をあぶり出す。
昭和29年、自治体警察(自治警)と国家地方警察(国警)の一本化が国会で論議されている時、大阪城の近くで国会議員の秘書の刺殺体が発見される。頭を麻袋で覆われて――。
大阪市警視庁の若手刑事の新城は、初めての殺人事件の捜査に意気込むが、国警のエリートの守屋と組まされて、苛立ちを覚えるばかりだった。
坂上泉『インビジブル』(文藝春秋)は終戦直後の混乱と経済成長期の狭間に大阪で起こった連続殺人を、リアリティ豊かに描いていく。
大阪市警視庁と聞いてもミステリー・ファンならべつに違和感を抱かないだろう。昭和20年代のちょっと歪な警察組織については、これまで小説やノンフィクションで知る機会が何度もあったはずである。
だが、ここではその歪さが、頭を麻袋で覆われているという奇妙な連続殺人を追う新城と守屋の捜査によって、よりくっきりと描かれている。そして、中華料理店に勤める新城の姉ほかの大阪人の個性的なキャラクター、そして猥雑な大阪の街も魅力的だ。
作者は戦争の悲劇という動機を隠そうとはしていない。だからこそラストの悲痛な思いがより迫ってくる。これぞ力作だ。
これこそまさに前代未聞だ。そえだ信『地べたを旅立つ』(早川書房)の主人公はなんと掃除機!
北海道警の刑事の鈴木勢太は、職務で訪れた小樽市で、自動車にはねられてしまう。約1日後に気がついたら……札幌市中央区の一室に置かれた『スマートスピーカー機能付きロボット掃除機ランルン』になっていた。
縦横35㎝の円盤――お馴染みの家電である。ただかなり高機能で、マジックハンドにペット監視機能、さらにはWi-Fi接続も可能だった。ちょっとできすぎだが、それらを駆使して他の部屋を探険すると、背広姿の男の死体を発見する。
一方、気がかりなのは姉の深春の娘、朱麗のことだった。再婚した夫のDVからふたりをなんとか助け出したのだが、深春が不審な死を遂げる。もしかしたら朱麗に危機が迫っているのではないか。
鈴木刑事は朱麗が身を寄せていそうな小樽の叔母の所へ向かう。そこまで約30キロメートル。お掃除ロボットは必死に移動していく。
降りかかるさまざまな危機をどう回避するのか。まさにスリルとサスペンスだが、ユーモラスでもある。死体の謎解きも抜かりない。感動の結末まで一気読みだ。
※山前譲氏の解説文は「ジャーロ」74号(1月号)および75号(3月号)掲載の書評「GIALLO BOOKREVIEW ピックアップ」より抜粋。